short | ナノ







※閲覧注意
(エロではありません。決して幸せでもありません。内容は痛いです。閲覧にはお気をつけて下さいませ。)








この数年間、私は本当に幸せな毎日を過ごしていた。


生まれて此の方平々凡々な毎日を過ごしてきた。仲の良い友達が多少なりともいて、口煩いが暖かい家族に囲まれながらのらりくらりと暮らしてきた。友達と喧嘩をすれば仲直りをし、部活に勉強もそこそこ頑張って、大恋愛ほどではないが恋愛なんかも多少はしてきた。面白みもなければ個性もない、本当に普通の人生を歩んできた。


だけど財前光と出逢ってから世界は一転した。こんなごくごく普通な私のどこに惹かれたのか分からないが、光と付き合うようになってから全てが光中心になった。同じ場所で同じ風を感じ、同じ太陽を浴び、同じ空気を吸う。それだけで私は得も言われぬ幸せを感じた。


ちょっと意地悪で生意気な光はいつも私をからかっては笑っていた。だけど本当に私が困ったり傷つきそうになれば「ごめん」とすかさず言ってくれた。ちょっと罰が悪そうな顔をしながら「反応がおもろくて意地悪し過ぎた」と、私の頭を撫でながら困ったように謝る光。そんな意地悪だけど優しい彼が大好きだった。光にならば何をされても許せちゃうぐらい大好きだった。


愛されれば愛されるほど愛するようになった。愛すれば愛するほど光が欲しくなった。光にあげられるモノならば全てをあげたいと思った。光からもらえるモノならば全てを欲しいと思った。日に日に光に対する感情は強くなり、そしてどうすればいいのか分からなくなってきた。


そんなある日。もしも、光が私からいなくなったら……と考えてみた。光が側にいない、どこにもいない生活。するとその瞬間、強い眩暈と吐き気がして倒れそうになった。光がいない生活は音も希望もない世界。真っ暗で悲しい寂しい世界。光は私の全てだから、光がいなくなれば私もいなくなっちゃうんだ。


そう友達に話したら「いくらなんでも大袈裟やろ。まあどんだけ好きなんかはよう分かったけどさあ」と言われた。


大袈裟…?そんな馬鹿な。
これは大袈裟でもなんでもない真実で偽りのない気持ち。光といるだけでいろんなモノが綺麗に見えた。光を取り巻く全てのものが愛しく、そして同時に儚くも見えた。


別のある日、ふとある考えが頭を過ぎった。
何度も言うように、私は本当に幸せな毎日を過ごしている。それは全て光のおかげ。光と出逢ってから私の世界はキラキラと輝き、光の横にいるようになってから毎日がそれはそれはバラ色のように幸せな日々を過ごしてきた。


これ以上の幸せは私にはもうないと思う。大好きな友達、家族、そして光がいる生活。


でもね、そんな幸せがずっと続く保障なんかひとつもないよね。脳天気な私でもそれは日々思っていた。だから光がいない世界を考えてしまったのだ。もしも、なんて考えたらきりがない。そんなこと分かってるけど臆病な私は考えてしまうのだ。


そこでひとつの答えにたどり着いた。それはごくごく簡単な答えだった。



《いま死んじゃえば私ってすごく幸せじゃない?》



そうだよ。幸せ絶頂の中、最期を迎えるって凄い幸せ。大好きな人に見守られてお見送りされる……えー、それってすごいイイじゃん!光に愛されながら死ぬんだよ?すごい、すごくいい!私はさあ、向こうの世界で光を待ってればいいんだし。サプライズが大好きな光だから、今回は私がサプライズしてあげないとね!とびっきりのサプライズを考える……うん、光がこっちに来るまで時間はあるんだし大丈夫。どうしよう、楽しみでたまらないっ!


そうと決まれば即実行しないとね。善は急げっていうし。最期に光の声が聞きたいなあ……よし、電話しよう!


「もしもし、寝てた?」

「寝てないっすわ。てかひなさんから電話とか珍しいけど……どうかしました?」

「ううん、ちょっと声が聞きたかっただけ!ふふーん!」

「えらいご機嫌やん」

「楽しみにしててね?」

「ハ?なにが?」



最高のサプライズ楽しみにしていてね。



愉しい終焉
(どうしてって?…だってさあ、そう思っちゃったんだもん。仕方ないよね)


20110702