short | ナノ
泣きじゃくりながら俺の胸に縋り付くお前を見るのは何度目だろうか。でもこれも、今回で最後にしたい……いや、させなければならない。
中学からの付き合いのお前と俺。俺はテニス部でお前はマネージャーだった。当時から明るい性格と美しい容姿は健在で、俺はよく周りの男子から羨ましがられていた。女子が苦手だった俺にとって、お前は唯一気兼ねなく話せる異性だった。
同じ高校に入学してからも何かとよく喋り、時には一緒に出かけることもあった。
その頃からだろう。 お前は告白される度に男と付き合うようになった。他人の恋愛に興味はないが、友達…そして仲間としてお前の恋愛に祝福していた。
しかしどれもこれも長くは続かなかった。
付き合ったら別れ、付き合ったら別れ……。別れる度にお前は俺に泣き縋るようになった。時には慰め時には甘やかした。『何でもかんでも付き合うのは辞め』と思いつつも、他人の恋愛に口出すのは俺のポリシーに違反するので言わなかった。
それでもお前の容姿のせいか告白する男は後を絶たんかった。いつの間にかお前は女子から反感されていて、それでも俺の前では何事もないように振る舞っていた。
大学生になった今、この関係は今だに続いている。
「また別れたんか?」
そう尋ねると小さくお前は頷いた。大学生になって益々可愛くなったお前が俺の胸で涙を流している。緩くかかったパーマから、目を真っ赤にしたお前が小さく震えている。
「っなんでいつも、うまく続かないんだろう…、」
ぽつりと呟かれた台詞に、俺もとうとう長年言えなかった台詞を口に出そうと決めた。
「ほんまに分からんのか?それはお前がその男のこと好きやないからや」
「、っ!」
「昔から思ってたけどこの際言うわ。何でもかんでも告白してくる男と付き合うのやめろや。そんくらい自分でもわかってるやろ?」
初めて他人の恋愛に口出しをした。案の定お前は俺の予想外の言葉に驚き、服をギュッと掴みながら顔を真っ赤に染めた。それは恐らく核心を突かれたからであろう。先程から震えは一向に止まらず、俺の胸から「、……ってるよ」と声が聞こえた。
「っそんなこと知ってるよ!私だってねっ、ただただ何も考えず何も感じずに付き合ってきたわけじゃないっ!」
感情剥き出しでそう声を張り上げるお前を見るのは初めてだった。涙は一向に止まらず、痛々しい程に目が赤くなっている。俺の服をギュッと握りながら、ゆっくりと顔を上げた。
「私だってこんな付き合いおかしいと思うよ?好きでもない人と恋人ごっこして、相手を悲しめて、傷つけて……っ私だって、そんなことしたくないっ!」
「っでも、そうでもしなくちゃ……、ユウジに甘えられないっ…!」
「……ねえ、なんで私じゃダメなの?なんであの子じゃないと、ダメなの?」
『あの子』というのは俺の恋人のことであろう。アイツとは高校卒業間近に付き合った。初めて異性を好きになって、初めて愛しいと思える人。それが彼女だった。
「あの子より私の方が美人だし可愛い…、」
ああ、確かにお前の方が容姿はええかもしれんな…
「スタイルだって私の方がいいし、胸だって大きい…、」
アイツはちっさくて確かに色気はないなあ…
「なのになんで…、っなんで私じゃダメなの?あの子よりも、私の方が昔からユウジの側にいたのにっ!」
そんなん、理由は簡単や…
「私はユウジのことが好きなのに…っ、好きだよぉ…」
泣きじゃくりながらそう訴えるお前を、俺は抱きしめてやれん。涙で頬を濡らすお前を拭うことすら出来ん。こうやって俺の胸にしがみついてもお前を愛することは出来ん。
願わくは俺じゃない誰かを愛してほしい。そして、幸せな姿を見せてほしい。寄り添いながら歩くお前と男を、これからも見守ってやりたい。
「……ありがとう」
そして、ごめんな…。
そうお前に囁くと、今まで見た中で一番切ない表情をしたお前が、俺の胸で震えていた。
だれも報われない (身勝手な男でごめんな。)
『お前』と『アイツ』 視点を変えれば報われるのはどちらだろう。
20110516
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