short | ナノ

※第三者目線(男)



うわ、雨やん。


午後の講義も終わって外に出たらシトシトと雨が降っていた。周りには雨宿りしている学生がいて、誰か知り合いでもいないかと辺りを見渡したが誰もいない。一人暮らしの我が家へは歩けば15分。走れば10分。ハア、と溜息をついて徐に駆け足をした。


雨は一向に止む気配がなく、おまけに雨足は強まる一方。ずぶ濡れの体で走っているとサークル仲間のアパートの前を通過した。その子は女の子だが気兼ねなく話せる間柄。突然遊びに行ってもいつもぶっきらぼうに招いてくれる。


(アカン、雨宿りしよ)


直ぐさまエントランスに入りエレベーターに駆け込む。彼女の家の階まで着いて徐にインターホンを鳴らす。暫くするとガチャ、と鍵が回る音がして扉が開いた。



「修二やん…てかその体どうしたん?」
「雨や雨!アカン寒いでちょっと休憩させて!」
「まあ……ええよ。あ、タオル持ってくるわ」



そう話すと彼女は一旦部屋へ戻った。軽く体を揺らして玄関に入る。すると男モンの靴があった。誰かサークルの奴が来てるんやろか?…そう思いながらタオルを受け取ると部屋へ上がった。



「ひな、なんか着替えない?上だけでもええし」
「スエットならあるよ?」
「ほなそれ貸して」
「乾燥機の中にあるから勝手に取ってええよ」
「下着も?」
「アホ。追い出すよ?」



そう言葉を交わしながら洗面所でスエットに着替える。あ、もちろん下着なんか見てへんで。ひながいるワンルームの部屋の扉を開けるとカーテンが閉まっててなんや暗い。洋楽が流れていてオーディオの明かりしか光がない。


床に座っているひなの後ろのベッドがゴソッと動いた。(誰やろ?木村か?)と思いながら視線をそちらへ移す。すると見たことがない男がベッドからこちらを睨んでいた。



「あ、起きた?」
「寝かけてた……てか、そいつダレ?」
「同じサークルの修二君」



そのひなが話す男性は切れ長一重の端正な顔や。てか俺、ものすごい見られてる。いやいやなんや睨まれてる?え、ちょっ、恐い。



「あのー…この方は?」
「ああ。一氏ユウジ」
「大学の友達?」
「ううん。実家近いねん」
「えーっと、もしかして彼氏…とか?」
「うん」
「…そうなんや。(えー、彼氏いるとか初耳やしい!てかまだ睨まれてるよー恐いよー!)」



そうこうしてると一氏という彼氏さんがのっそりとベッドから体を起こした。上半身裸に下はスエット。(…あれ、もしかして俺、ちょうお邪魔虫ちゃう?!) そう思いながらひなを見ると薄手のワンピース姿。ベッドの下には彼氏のであろうジーンズがある。あー…これ完璧にやっちまったパターンやん。(俺、終わった。なんていうバッドタイミング。)



「なんか、タイミング悪かったよな…。ごめん…なさい」
「えっ……あー、まあしゃーないやろ」



苦笑いするも苦し紛れにならず、居た堪れない空気が流れる。彼氏さんはもう一度ベッドに横になり携帯を弄っており、ひなはぼんやりと音楽に耳を傾けている。



「なんか温かいの飲む?」
「いや、いいですよそんな」
「なんで敬語?コーヒーでええやろ?」



そう軽くひなは笑うとキッチンへと向かった。部屋には俺と彼氏さんという最悪な展開。チラッと彼氏さんを見ると相変わらず携帯を触っている。ディスプレイの明かりが顔に当たる。その姿はなんというかとても綺麗で、そして先程までの二人を想像するととてもエロく見えた。するとギロッと目が合い、彼氏さんが「アンタ、」と呟いた。



「修二…やったっけ?」
「は、はい!」
「ひなとは仲ええん?」
「えっと…、まあ、人並みに仲良く…しています」



いつの間にか正座になった自分はかなり情けない。このあと何言われるんやろ…お前殺すぞとか言われたら泣いてまうで…。そう冷や冷やしていると「そっか…」と声が聞こえた。



「アイツにもちゃんと友達おるんや…なんか安心したわ」
「は、はあ…」
「知ってると思うけど人見知り激しいからなあ。おまけに俺と同じぐらい愛想ないし」
「……はい」
「仲良くしたってな」



そう話すと彼氏さんはフッと優しい表情になった。なんや恐いと思ったけど…こんな表情もしはるんや…愛してるんやなあ。



「まあ手出したら殺すけど」
(アカン、やっぱ恐い!)



その後ひながマグカップを持ちながら戻って来て、有り難く頂いて直ぐさまおいとました。ひなはゆっくりしてええんやで?と言ったけど、そんなん出来るわけあらへん。傘を借りて真っ直ぐと自分のアパートへと帰った。


鞄と上着をそこら辺に放り投げるとベッドにダイブする。ひなと彼氏さんの表情や声がリピートされる。薄いワンピースから浮かんだ体のラインに彼氏さんの姿。あー…なんていう自己嫌悪。てか彼氏いるなんて微塵も知らんかったし、感じられんかった。いやまあ、愛想ないけど美人やし?いてもおかしないけど?


モヤモヤする頭を掻きむしる。あーもう、雨なんか降らんかったらこんな思いせえへんたのに。なんやねん俺、めっちゃいま胸苦しいで。それにめっちゃ切ない。窓からは雨がザアザアと降っている。(今頃二人は何してるんやろ…ハア…。)




嗚呼、無常かな。
(なんやねん、失恋かっちゅーねん。あほんだら)


20110219