short | ナノ
『浮気してたで』
誰が?
『千歳千里。自分の彼氏やろ?』
へえ…、そうなんだ。
『えらい落ち着いてんなあ。自分、彼氏に浮気されて悔しくないん?』
悔しい?なんで?
『だってひなっちゅー彼女がいんのにどっかの誰かとイチャついてるんやで?』
別に、千歳が他の人と何してようがいいよ。
『淡泊やなあー。欲とかないん?てか普通悲しいやろ』
欲ならあるよ。千歳とセックスしたいもん。
『そういう欲やなくて独占欲とかや』
束縛はしたくもないしされたくもない。そもそも人を独占するっていう考えが分かないよ。
『恋人ってそういうもんちゃうの?』
私は違う。千歳が私じゃない誰かとキスしてようがセックスしてようが、いいよ。
『…なんで?』
千歳の自由でしょ?浮気はいいよ、誰といつしてようが。
最後に、私の所へ帰ってきてくれれば、それでいい。
『…それでいいんやな?』
うん、それがいい。
千歳の家に行けば毎回違う香水の匂いが残っている。掃除をすれば、明らかに私のじゃない髪の毛が落ちている。ごみ箱にはお泊りセットであろうパックに入った化粧水や乳液の残骸が入っている。そこに同じく、彼の体内から出た欲の残骸も入っている。
また誰かといたんだね。 また誰かと交わったのね。
それを咎めるつもりはないよ。もともと放浪癖のあなただもん。よく知らないけれど、地元の頃からいろんな人と遊んでいたんだよね?手つきや物腰でわかるよ。
『やっぱり嫌なんやろ?』
嫌じゃないよ。
『だって泣きそうやで』
…嫌じゃない。最後に帰ってくれるのなら、いい。
『そんなに自分を苦しめんときや?我が儘言ったらええやん。いつか疲れんで?』
―…疲れへん。我が儘なんか言ったら負けや…今まで自分が作り上げてきたモンが一気に崩れる…。
『それでいいの?』
それで、いい。何度も同じ台詞言わせんとって。
『…わかった。じゃあ何も言わないよ。これからも近くで見守ってるから、またいつでも何でも言ってきてね?』
…うん。ありがとう。
主がいない家で、暗闇の中、そっと会話は終わった。ベッドに横たわれば千歳の香がする。香水の残り香も、彼の香には勝てない。
ガチャガチャと玄関から音がする。千歳が帰ってきた!それだけでいつも嬉しさと安堵で胸が締め付けられる。
今宵はどんな香がする?
それでも最後には、私の香であなたを包みたい。
あなたの香に包まれたい。
さすらえど、心中。 (云うならばジキルとハイド)
20101208
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