short | ナノ



イライラする。


年末が近づくにつれてイルミネーションが多くなる街、やたらと耳にするクリスマスソング。あーかったるいかったるい。


爺さん婆さんが立ってるのに堂々と優先席に座っとる若者。混んでるのに缶ビール片手に今にもぶっ倒れそうな酔っ払い。


夜中やのにファミレスやコンビニでちっちゃい子供を振り回しとるアホっぽい夫婦。子供の前で平気にポイ捨てしよる大人。


何よりも一番イラつくんは最近の歌。会いたい会えないばっかりで自分からは行動せん独りよがりな歌詞。終いには会いに来て、と。


あー、イライラする。
曲全部を聞いたことないし、もしかしたら正論を歌ってるんかも知れん。でもや、会いたいんやったら意地でも会いに行け。てか何が一番イラつくってそんな歌詞に共感する女。


『めっちゃ泣けるわあ』
と言いながら盛り上がるアホな女に軽蔑。あーウザいウザい。てかお前らはそんなご立派な恋愛してるんか?所詮薄っぺらい恋愛しかしとらんやろ。


イライラする。
俺には関係ない、でも、イライラは止まへん。





「お前っぽいなその考え方」

「そう思わんか?」

「まあわかるけどそこまで何も思わんな。会いたいけど会われへんって悲しんでるんやで?健気で可愛いやん」


白石は資料に目を通しながらそう答えた。俺は白石の斜め横に座りながら音楽雑誌を眺める。俺からしてみれば最近の歌なんか陳腐や。ほんまくだらん。



「ひなちゃんとは会ってるんか?」



暫くの沈黙後、不意にそう白石が尋ねてきた。



「一応。まあ頻度は少ないかも知れんけど」

「学校も違うし…確か家離れてるよなあ?」

「ああ。最近は部活忙しいし時間もないけどなあ…」

「ほな、ようわかるんちゃうの?会いたくても会えないって気持ち」


資料から目を離し俺を眺める白石。その表情は会いたいんやろ?って言いたげなご様子。いや、俺の口から会いたいって言わせたいご様子や。



「…会いたかったら会いに行けばええねん。てか会いに来よったらええ」

「うわー超自己中」

「あほ。俺は自分のことで精一杯や。ひなのことを何時でも何処でも優先出来ひん」

「ふーん。ひなちゃん可哀相やなあ…かわいそー」


楽しそうな笑みを浮かべてそう発する白石はほんま性格悪いわ。可哀相て…だってそうやん。何でも相手を優先させるのが愛ならば、そんなん俺は愛とは思わん。それは自分の驕りであって愛してるっていう自己満足。



「会いたい会いたい言うんなら自分から会いに行く」

「離れてても?」

「会いに行く」

「仮に、すぐに行けへんぐらい離れた所にいたら?」

「それでも行く。俺が会いたかったらな。もしもこの世界からおらんくなったら、俺はその後を追いかける」

「……ほう」

「あー、早うロックの時代に戻らんかな。てかそもそも恋愛の曲が好かんねん」


机に置いていた携帯が震える。ディスプレイを見ればひなと表示されている。メールを開くと取り留めない文章で……だが、ふと顔が見たくなった。時刻は19時半…まだ大丈夫やな。



「帰るわ」

「今から行くん?」

「…そやったらなんや?」

「いや…。この時期は寒いんやし青姦はアカンで?」

「アホ」



ヤラシイ顔で手を振る白石を無視してコートと荷物を持って部室を後にする。『今から行く』とだけ送るとポケットに携帯をしまった。少しだけ足早になってるんは……たぶん寒さのせいやろう。





エゴイスト



20101205