short | ナノ


斜め前に座っている千歳君。たまにふらっと授業に出てもこうやって居眠りしている。その大きな身体からか、はたまた珍しいからか授業中先生はよく彼を意図的に当てる。その度に隣の席の平山さん(女の子、しかも可愛い)が彼を起こす。みんなの前で堂々と彼に触れられるなんて…ちょっとズルイ。いや、かなりズルイ。正直とっても羨ましい。



千歳君は謎が多い。白石君の包帯並に謎が多い(あの包帯の無駄さが否めない)。話し言葉は方言で時々なにを話してるか分からない。あの身体の大きさだって分からない(何を食べて育ったんだろう?)。クラスメイトの家族構成をいきなり当て出すし(私も当てられた)。彼はもしかしたらエスパーかもしれない。




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「寝坊したばい…」


午後からふらふらと授業にやって来た千歳君。その社長出勤にみんな呆れながらも千歳君がやって来るとクラスが穏やかになる。「今日はゴルフでもしてたんですか、社長さん!」と男子が茶化すと、彼は少し困りながらもいつもの優しい微笑みで答えていた。午後一の授業は担任の数学で「千歳、お前来るん遅いわほんま」と担任は呆れながら呟いた。



『あ、葉っぱついてる』



大きなその背中には青々とした葉っぱがついている。寝坊したと言っていたけど…裏庭とかで寝ていたのかな?私の横、千歳君の後ろの席の横山君は先程から居眠りモードでそのことに気付いていない。その葉っぱに、その背中に釘付けになりながら時間は刻々と過ぎて終わりのチャイムが鳴った。ざわざわと騒ぐ教室、震える手に苦笑しながらも腕をそっと伸ばした。



「千歳君、葉っぱついてるよ?」



そう声を掛けて背中についた葉っぱをそっと取った。千歳君の大きな身体がピクンと動いた。ゆっくりと私の方へ身体を捻ると私の指先を見た。斜めから私を見つめる彼。



「ああ、すまんばい。ありがとね」

「いいよ。ていうか何処で寝てたの?」

「天気いいけん、ちょっと裏山に行ってたばい」

「そうなんだあ」



にこにこと綺麗な顔で微笑む彼にフラフラする。そのキラキラと輝き放つオーラに胸がキュンとする……ああ、私千歳君のことが好きなんだな。千歳君は私が取った葉っぱに再び視線を戻すと、すっと長い腕が伸びてきた。



『あっ……、』



軽く触れる、指。千歳君は私が持っていたその葉っぱをゆっくりと奪った。一瞬だけ触れた指先。その一瞬がスローモーションのように映る、感じる。くるくると葉っぱを指先で回す彼。



「川瀬さん、寝ていたことは内緒ね?」



意地悪な顔で、そう告げる千歳君。裏山は隠れスポットばい、と呟いてクルっと前へ体勢を戻した。触れた指先が熱を持ち、速まる鼓動は止まらない。再び彼を斜めから眺める私。少しだけ、距離が近付いた気がした。




ナナメの彼
(この恋に気付いて...)



20101122



シークレット×シークレットを聴いて突発的に書いてしまった。