short | ナノ
「なんやねんー!俺はまだ飲めるっちゅーねん!」
「もどした癖になに言っとるとね。まだまだ謙也には負けんと」
ジョッキ片手にギャーギャー騒いでる謙也を横目に千歳は豪快に生中を飲み干した。「もうそろそろ日本酒が飲みたか」と千歳が言う。謙也はいきなり口元を押さえてトイレへ駆け込んだ。それを見ながらユウジと光、そして俺は「またやっとんで」と笑った。
謙也は決して弱い訳や無い。千歳を除くこの面子やったら一番強い。いつもやったら光が謙也に潰されてる(まあたまに俺も)。それぐらい酒豪の謙也も千歳にはこてんぱにやられる。それほど千歳は酒豪で尚且つ飲ませ上手。さすが九州生まれ。恐ろしい。
「白石飲んでるとね?」
胡瓜の浅漬けをつまみに日本酒を嗜む千歳。デカイ身体にちっちゃいおちょこを持つ彼の姿は哀愁が漂う。というか似合い過ぎる。軽く引いてまうぐらい酒飲んでるのに顔は全く変わってない。
「俺あんま飲まれへんねん」
「てか先輩がおかしいんすわ。明らかに飲み過ぎやのに全然変わってないしバケモンか」
「バケモンとは酷か。そげん言っちょると潰すばい?」
「いや、勘弁やわ…どうせならユウジ先輩潰してくださいよ」
「なんで俺やねん」
少しも赤くなってないユウジが煙草をふかしながら顔を歪ました。光は意外とその雰囲気に身を任して飲むタイプ(だから謙也に潰される)で、俺とユウジはわりかしセーブしながら飲むタイプ。
「そう言えばユウジが潰れたとこって見たことないなあ…どうなるか見たいな」
「でしょ?やからユウジ先輩潰してくださいよ」
「いやいや、なんでお前らの為に潰れなアカンねん」
またもや顔を歪ませるユウジはそう言いながら煙草を灰皿へ押し付けた。
「可愛がったるけん、ユウ君ちょっこしこっちへ来んね?」
「嫌やわボケ」
「あースッキリした!千歳、まだ勝負はついてへんで!」
上機嫌な様子で謙也がトイレから戻ってきた。まだ飲む気かコイツは…。
「ユウジ君も参戦するばい」
「おぉっ!ユウジもか!これは負けれんっちゅー話や!」
「すいませーん、生中3つ」
「なん勝手に注文しとんねんお前っ!」
「や、だって飲むんっしょ先輩?まあ存分に負けてください」
「おまっ…謙也ー光も飲みたいやってー」
「すいませーん!あともうひとつ生くださーい!」
「ちょっ、謙也君なんしてくれんねん!」
そんなこんなでユウジと光も参戦することになった。その光景をそっと写メって銀と小春に送信する。金ちゃんは…まあ来年になったら一緒に飲めるな。
「白石、お前も飲めや」
もう完璧いろいろと諦めた顔したユウジが俺に告げる。知らん間に俺の分も生中が頼まれててグっと前に出される。
「潰れたモン負けや!ほないくでー…乾杯っ!」
本日二度目の乾杯。ふと時計を見ると午前0時を回った頃。(ああ…今日の夜は長くなるな)と思いながらアルコールを口に含む。
「一本ちょうだいや」
「俺のんの一本は高いど?」
「払うん恐いわー」
ユウジにライターを借りて白い煙を吐き出す。普段は吸わないこの独特な香や味が懐かしく感じる。ブルル…っと携帯が震える。メールを開くと小春からで『うちも行きたかったわぁ(>_<)今度は是非とも行くわね★飲み過ぎには注意よん!』と書いてある。
「注意……な」
とりあえず、この後どうやって謙也と光を運ぶか考えよ。あ、今日は千歳おるし何とかなるか。
(ああ…この時間が永遠に続いたらええのに)
柄にもないことを頭の片隅で考える。ふわっとする身体にそこはかとなく込み上がる切なさ。それを払うかのように生中を飲み干す。
「良い飲みっぷりばい」
ふわっと笑う千歳の手には新たなアルコール。ああ、やっぱ生中はちょっと苦いわ。
漂流教室
20101024
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