short | ナノ


今日はなんや調子がのらん。いつもやったら隣に小春がおるのに今日は風邪で休んどる。相方がおらん教室はなんか物足りん。部活も休みやし早退しようかどうしようか悩んでたら、いつの間にか屋上へ向かってた。


立入禁止と紙が貼られてる扉を開けると先客がおった。もじゃもじゃしたくせ毛に馬鹿デカイ図体…そんな奴はこの学校に一人しかおらん。俺に背中を向けて床に寝そべっている奴の後ろにしゃがみ込み、ええ音が鳴るように尻を叩いてやった。「痛っ、」と言う声が聞こえるとゆっくりと後ろに振り向きよった。



「ん〜?一氏か…なんねいきなり叩くんじゃなか」

「俺に尻向けるとか叩いて下さいて言ってるようなもんや……てかなんやソレ」

「んん?ああー忘れとったばい。朝拾ってきたとね」



デカイ体を起こして胡坐になる千歳。その腕の中には黒猫がおった。黒くちっちゃいそのチビは「ミャー」と鳴きながら千歳にスリスリしてよる。その行動に千歳は「むぞらしかー」と呟いた。



「てかここ屋上やん。ようそのチビ連れ込んできたなあ」

「こんなむぞか子猫ば置き去りになんて出来んったい」

「首輪しとらんし野良か?にしては人懐っこいなぁ…千歳と周波が合うだけか?」

「俺実は猫やけん、」

「あーはいはいそんなつまらんボケいらんわ」

「一氏は冷たか…なあ?」



なあ?という千歳の言葉にチビは「ミャー」と鳴きよった。コイツら会話しとんのか?…その心を読み取ったのか千歳は小さく微笑みどや顔をしよった。…ったくなんやねんその顔。



「ばってん何しにここに来たとね?」

「愚問やろ、サボりやサボり。今日は小春おらんしつまらんわ」

「そげか」

「……」

「……」

「なんかおもろい話でもしろや。一発芸でも可」

「うーん…難しかねぇ…あ、この前のタイトル戦がすごかったとね!」

「タイトル戦?」

「将棋だっちゃ!」

「…やっぱええわ」



将棋なんかよう分からんし。ふと千歳の顔を見るといつものようになぞったような笑顔で「残念ばい」と呟いた。



「一氏は興味ないものにはホント冷たか。俺の話ばいっつも無視するばい」

「あー…俺お前に興味ないしなぁ。まあ許したって」

「酷かー酷か男ったい」



そう話すお前やってチビに首ったけで全然俺に興味ないやんけ…と心の中で呟いた。


(お前のそういう処が無性にイライラする)


それは単に千歳が嫌いなわけやない。でも千歳の本質が自分と重なるところがあるような気がする。そう思うと無性にイライラする。


(自分を見てるようで嫌や)


今だって沈黙が俺らを包む。普段なら俺はわりかし喋ってボケてつっこんでと周りを引っ張るムードメーカー的存在だと自負してる。でもコイツとおる時はそんなことない。無言の中でお互いを分かり合ってる気がして嫌。そんな空間に居心地の良さを感じる自分がもっと嫌や。



「俺お前のこと嫌いや」

「あららーそれは残念たい」

「そういう態度が嫌」

「そげか…でも俺はお前のこつ好いとうよ?一氏のこと好きやでー」

「変な大阪弁喋んなアホ」

「手厳しかぁ…」

「お前見とると自分見てるみたいで嫌や」



そうぶっきらぼうに話すと千歳はチビから俺へと視線を移した。その表情は一瞬驚いてるようにも見えたが、今はいつものように変わらん笑顔だった。



「そげん俺は顔ば怖かと?」

「アア?俺はそんなに顔怖いって言いたいんか?」

「ハハ、冗談たい。一氏はいつもむぞらしか!」

「なんやねん……やっぱお前嫌いや」

「俺も一氏と似とう気がするばい。じゃけんお前さんといる空気は澄んでるったい」







いつの間にか夕焼けになっていた。屋上から見る夕日はいつもよりデカイ気がする。そろそろ帰るかと重い腰を上げるとチビが「にゃー」と鳴きよった。



「このチビどうするん?」

「家はペット禁止じゃけん…とりあえず部室に行くばい」

「部室?…白石怒るんが目に見えるわ」

「その時はその時ばい」



むくっと立ち上げる千歳はやっぱりデカイ。財前風に言えば無駄にデカイっすわ。チビは千歳に抱かれて上機嫌のように目を細めとる。ダラダラと屋上を出た後すると部室へ向かう。チビが腹減らんよう適当にごはんを置いて部室を出た。するとさっきより夕焼けが赤くなっていた。



「こげん綺麗な夕焼け見るのは久々ばい。赤かぁ…」

「ああ、そやなあ」

「感情がこもってなか」

「ああ、そやなあ」



そう返すと千歳は困ったような笑顔で俺を見た。いつの間にか立ち止まって夕焼けを眺める俺らは端から見ればいい青春場面だろう。しかし、だ。何で今この夕焼けを小春やなしにコイツと見なアカンねん。暫くすると千歳は夕焼けから俺へ視線を動かした。




「みどりの一氏とあかい空が綺麗にコントラストしてるったい」




ふわっと優しく微笑みながらそう話す千歳。ああ…ちゃうちゃう。夕焼け効果かキラキラと輝いて見える…俺なんかよりお前の方が綺麗やで。絶対に言わないであろうこの言葉を、やはり俺は口に出さずそっと胸に仕舞う。


またしても沈黙が俺らを包む。無言の会話を続けるこの空間はやはり好きで落ち着く。お前の言葉を借りるならば『空気』が『澄んで』いる。他人と重なり合う部分を共有するのはとても不思議や。そんなことを考えている自分は一体なんやねん。千歳と自分を比較する、欠点でなく共通点を知らず知らずの内に探してまう俺が気持ち悪い。



「一氏、あの夕焼けまで一緒に走るったい!」



千歳が発した言葉に思考がストップする。奴の表情を伺うとガチだ。本気で青春めいたひとこまを実行しようとしている。夕焼けを指差し目を輝かせて笑ってる千歳と唖然と立ち止まる俺。



前言撤回。
俺とお前は似てへんわ。





みどりの君と
あかい空




20101011


わらえ」様へ提出。