short | ナノ
頬に手を添える。顔を近づけて温もりを感じる。愛してると囁く代わりにキスをする。目を開けば少し紅潮した愛しいお前が広がる。
言葉じゃなく行動で示したい。ありふれた言葉でこの気持ちを伝えたくない。模範的な恋愛式じゃ物足りない。どうせならば一生かけても解けない式がいい。そうすればお前と一緒にその式の答えを導くことが出来るから。
「ユウジは言葉が足りない」
「そのつもりはない」
「でも足りないもん」
「好きだの愛してるだの言われたいんか?」
「時には……ね」
「ふーん」
言葉は無責任だ。殴ったり、刺したり、蹴るわけでもないのに平気で人を傷つけられる。嬉しいことや喜びも、悲しいことや憎しみも、両極端のこと全てが可能だ。言われたことは覚えているのに、自分が言ったことは簡単に忘れてしまう。
言葉にするのは簡単。でも実行するのは難しい。だからこそ俺は言葉でなく行動で示したい。「好き」と言うかわりに抱きしめる。「愛してる」と言うかわりにキスをする。この方がよっぽど意味が強く、そして気持ちを伝えられると思う。
なあ、わからんか?この気持ちを。
「それにユウジは愛し方をひとつしか知らないよね」
「ひとつあったら十分や。お前を想う気持ちは変わらん」
「でもね、たまには違う角度から見てみるのもいいと思う。物事をあらゆる角度から客観的に見ると違った面も出てくるよ?」
「でも行き着く場所は同じやろ?」
「そうかもしれないけど…でもプロセスひとつでいろんな色があるよ」
「そういうのかったるいわ」
そう言うとお前は怪訝な表情になった。お前が言いたいこともわかる。でもな、そんなことなんかどうでもええねん。ここまでお前を愛してしまった俺にはそんなちっぽけなことは関係ない。取り返しのつかない処まで俺は来てしまった。だから愛し方なんてひとつでええ。重要なのは手段じゃなく、その目的だから。
納得がいかないお前はうんうんと一人で考え込んでいる。その表情や動作はどれをとってもやはり愛おしいくて、俺はお前にキスをする。たぶん、この先もずっと数え切れないほどの愛をお前に囁くだろう。
愛してる。 それだけでいい
20101007
「曖昧ラブレター」様へ提出。
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