アネモネ | ナノ



私は周りと少し違う存在だと思っていた。昔から興味を揺さぶられるモノなんかなくって、女の子特有の連帯感が苦手で、友達と呼べる友達もできなくて、知らない内にバリアを作ってきた。同世代の子みたいにはしゃげなくって、恋や愛なんかわからなくって…周りから変わり者扱いされるのも慣れていた。そんな自分が嫌いで、だけど少し好きだった。私は周りとは違うのよ、そんな自分に酔っていたのかな。


そんな私に成っていくと同時に音楽の楽しみを知った。いろんなバンドを聴いて歌詞や曲調にのめり込んだ。音楽は一人でも楽しめる、ライブに行っても孤独を感じない。そんな空間が堪らなく好きだった。


財前君と出逢って他人と感情を共有する楽しみを知った。同じ音楽を聴いて、話して、笑いあって…。今まで一人でも十分楽しかったのに、財前君と共有するだけで更に楽しいものになった。2倍…2乗…そんなもんじゃない、言葉では表せないぐらい様々な感情が生まれた。


私は、どうしたい?
財前君とどうなりたい?


あの日の告白を、このチケットを、財前君の表情を。私はどんな答えを出せばいい?


今日はライブ当日であと少しすればライブが始まる。まだ答えが見つからず、私は未だに部屋に引きこもっている。ベッドに寝転んでみたり、パソコンをいじったり、雑誌を読んでみたり。だけど頭は財前君でいっぱいで、思えば思うほど胸が苦しくなる。財前君は私を待っているのかな…。私は…私は……。


少しでも思いが重なるのなら…
深く考えんで…
素直な心に触れたい…



耳からは音楽が流れる。私が大好きなバンドで、財前君と初めて出逢ったあのバンド…私が最も大好きな曲。幸せな恋人達を歌う、しゃがれ声が素敵なこの曲。


そっかあ……
難しく考えなくていいんだ。


私は、財前君に会いたい。
もっともっといろんな話をしたい。音楽のことだったり、好きな映画や食べ物だったり、財前君のことなら何でも知りたい。財前君ともっといろんなモノを見てみたい。



「…行かなきゃ」



時計を見れば時刻はライブ直前。ここからライブハウスまではそう遠くない。服は…化粧は…いや、そんな時間なんてない。走らなきゃ、財前君のところまで行かなきゃ!


携帯と財布、そして財前君から貰ったチケットを鞄に詰め込んで家を出た。走らなきゃ…っ、間に合わないっ!財前君に会いたい、会いたい、会ってもっと話したい。今の私を話したい、見てほしい、この気持ちを伝えたい。


走れ…もっと早く、
彼のもとへ…っ、走れ!




幸せな恋人達の歌を
(あなたと歌いたい…)


20110715

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