さも当たり前のように突然と告げられた告白に、私の頭は一瞬で真っ白になってしまった。 財前君からもらった封筒を眺める。形を確かめチケットを取り出し、そっと紙に触れてみた。彼の心を読み取ろうと考えてみるが思えば思うほどわからなくなる。ただ手には紙の触感と、私を射ぬくような彼の視線と、内側から込み上がってくる熱い何かが漠然と私の前に立ちはだかった。 (盛大なネタ振りとかじゃ…ないよね…。) 彼に限ってそんなことはないであろう。でも、だからといって告白をすんなりと素直に受け取れない私。あんなにも有名でモテるはずの財前君が私を好きだと言った……なんで私なの?と疑問に思っても不思議ではない。それほど彼は魅力的な人で、私はコンプレックスに塗れた普通の人だから。全くもって正反対すぎるよ。 するとガラガラと教室の扉が開く音がした。今は放課後だから忘れ物をしたクラスメイトだろうか。 「川瀬さん…放課後にひとりで何しとっとね?」 「…別に、何もないよ」 同じクラスの千歳君がもじゃもじゃの髪の毛を更にもじゃもじゃと触りながら入って来た。 (私の名前知ってるんだ…) 彼とは話した記憶はないからてっきり知らないものだと思っていた。どことなく千歳君とは何か同じ匂いを感じる。あの周りに一切興味なさそうな所とか、どこか他人と一本線を引いている所とか。まあ人のこと言えないけど。あ、だから同類の匂いがするのか。 ふと千歳君の視線が私の手元を差しているのに気付いた。手にしている封筒を見て何やらほくそ笑む彼。(何だかヤな予感、) 「んー、もしかしてラブレターじゃなか?」 「……違うよ」 「嘘下手か〜。まあおおよそ贈り主ば予想つくったい」 「……、」 「最近の黒猫さんえらい調子ばよかったい。川瀬さんによう懐いとるらしいしねー」 黒猫…?懐いてる…? 暫くしてハッと分かった。なんていうか自分の後輩を猫に例えるってどうよ。しかも懐いてるって…。思いもよらぬ発言に千歳君の見る目が変わってしまった。相手にするのも何だか墓穴を掘りそうだから沈黙を続けると今度は優しいような温かいような、むしろ生暖かい視線を感じた。 「川瀬さんは好きな人いるんとね?」 「…さあね。千歳君には関係ないよ」 「冷たかー。そげん警戒してくれなっせ。別に茶々入れとるわけじゃなかとよ?」 十分入れてるじゃん、と心の中で悪態つきながら窓の外へと視線を移す。ここからはテニスコートが少し見えて、自然と財前君を探す自分がいた。いつもの気怠さが微塵もない活き活きとしたテニスプレイに少しだけ頬が緩む。普段は部活なんか暑いし怠いし嫌いだなんて言ってるけど、なんだかんだで好きなんだなあ…。 こうやって誰かを気になるなんて初めてだった。財前君には嘘をついたけど、日に日に彼に執着しそうになっている自分に気づいた。その人に良い風に思われたくって、少しでも自分と彼との共通点を探すようになっている。音楽のように一方的に好きなのは簡単なのに、どうして財前君だと見返りを求めてしまうのだろうか。やはり人だから…?財前君が…そして私が…? 「川瀬さんはどうするつもりったい?その返事」 「……千歳君はさあ、誰かを好きになったことある?」 「好きに?それは恋愛感情ってことで?」 「うん」 そうばいねーと呟いた後、暫く経ってから千歳君は「あるよ」と答えてくれた。 「俺よか幾分小さくてむぞらしか女の子だったばい。今でもふと思い返す時があるとね。まあ今じゃ何処にいるのか何をしているのかさっぱり分からんばい」 「……」 「後悔はなか。ばってんもう少し素直になってたら少しは変わってたかもしれんばい。川瀬さんも難しく考えんと、思ったように相手に伝えたらよかばい」 「……千歳君って案外お節介なんだね」 「そげか?うーん…まあよか意味で受け取らせてもらうったい」 そう話すと千歳君は教室を出て行った。何であんなことを千歳君に聞いたのか分からないけど、こうやって話せて少し気が楽になった。 難しく考えんと、ね。 私にとって財前君は……たぶん、とても大切な人。いや、たぶんなんかじゃない。とても大切な人だ。ライブは一週間後。それまでに財前君の質問にちゃんと答えを見出ださなくてはいけない。 なんでかな、鼓動がいつもより早く感じる。 今日明日を祈る (わからない、だからこそわかりたい) 20110709 [*前] | [次#] |