アネモネ | ナノ




一晩中考えた。自分の言葉、行動、先輩の言葉、そして川瀬さんのこと。考えれば考えるほどするすると紐が解かれていく。ああ……なんや簡単やん。答えは容易に見つかった。



俺、川瀬さんが好きなんや。



今まで好きになった女なんかおらんかった。自分を好きだと言ってくる女がいれば、興味本位で付き合ったりもしてきた。一緒にいれば単純に可愛いなと思ったこともあったけど、それ以上の気持ちは生まれなかった。


でも川瀬さんは違う。容姿が好きとかやなくて、彼女の雰囲気や人柄全部が愛おしい。一緒にいる空間が好きで、もっともっと彼女のことが知りたい。俺が、彼女を求めている。



そうか、これが『好き』っていう気持ちなんや……。





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「どうしたん?今日は元気ないやん…。体調悪いの?」


昼休み。毎週水曜日に屋上へ行くの日課となった俺は例の如くそこに来ている。隣に座っている川瀬さんの言葉を聞いて我に返った。



「いや、何もないっすわ」

「考え込んでる様子やったけど悩み事?」

「……まあそんな感じ」



アンタのことを考えてました、なんて口が裂けても言えない。話したいこと、聞きたいことが沢山ある。

(彼氏はいるのか…好きな人はいるのか…俺のことをどう思っている…俺は川瀬さんのことを……。)

だがそんなこと聞ける筈もなく、いつものように取り留めのない話しをする。彼女と同じクラスの千歳先輩の話は案外ネタになる。ただの無我マニアでジブリオタクだと以前言ったら、ツボにはまったらしく笑い続けてはった。



「またツアーやるっぽいな」

「あー…またあのライブハウス来るな。フェスにもよう出とるしにわかが増えそうや」

「確かに…。お陰でチケット取れへんたよ」



そう落胆する彼女は本当に残念がっている。一週間後にはそのチケットが手元に届く俺は、彼女を誘おうかと口を開いた。



「よかったら……、」

「…?、どしたん?」

「……もしかしたら当日券発売あるかもしれんし、予定だけでも空けといたら?」

「当日券なあ…望み薄やけどそうするよ」



予鈴が鳴り「そろそろ戻ろっか」と川瀬さんが腰を上げる。だらだらと屋上を後にして彼女と別れた。どうも授業に出る気になれず、俺は再び屋上へと折り返した。先程と同じ位置へ戻り下へしゃがみ込む。壁に背を預けて空を仰げば、綺麗な青空が広がっている。


チケットが届くのが一週間後。ライブ当時がその一週間後。今日からあと二週間後…。



「どないしよ…、」



うっすらと頭で思い描くストーリー。それをそっと胸に仕舞い、ゆっくりと瞼を閉じた。





紐を解き放つ。
(そして少しずつ動き出す)



20101102

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