アネモネ | ナノ




今日は土曜日で一日練習。陽射しに憎いぐらい照らされる中、汗をかきならがらひたすらボールを追い掛ける自分がマゾに思えてきた。好きでやってるし、しかもスポーツやけどなんや可笑しく感じる。ホモな先輩や変な口癖言う先輩の姿を見てるとほんまにテニスか?って時々疑ってしまうけど。


約一時間の休憩中、いつもやったら謙也君やユウジ先輩らと喋ってるが今日は何となくコート裏の中庭に来てみた。手には携帯とiPod。この機械がないと俺は生きていけへんと改めて感じる。


中庭のデッカイ木がある下で、それまたデッカイ人が寝転んでいる。その光景があまりにも似合い過ぎてて何気なく写メったった。するとその音に気付いたのかうっすらと瞳が開いて目が合う。



「んん…、ああ光とね。もう部活の時間ったい?」

「あと40分ありますわ」



そう言葉を交わして千歳先輩の横に座る。身体を木に預けて上を見上げると、木の葉から青い空が垣間見れた。その風景を写メってブログを更新する。耳元にはお気に入りの音楽が流れていて、横にいる先輩は相変わらず寝転んでいる。ああ…こういう時間嫌いやないな。


暫くすると視線を感じて横を見る。すると寝転んでる先輩が何やらニコニコしながら俺を見ていた。



「何を聴いてるとね?」

「先輩は多分知らんバンドっすわ」

「そげか…ちょっと貸してみなっせ」


そう言葉を発すると先輩は身体を起こして手を差し延べてきた。

(この人音楽なんか興味あったっけ?)

と思いながらイヤホンを外してその掌の上に置いた。先輩はイヤホンを着けて再生ボタンを押す。俺の好きな音楽を先輩、しかも音楽に疎い千歳先輩が今聴いてると思うと変な感じになった。



「なかなか昔っぽい曲調ばい…ロックってやつかの?」

「ガチガチのロックっすわ」


先輩からイヤホンを受け取ると、俺と同じように先輩もデッカイ身体を木に預けた。小鳥の囀りが近くて聞こえる。暫く沈黙が流れると「思い入れがある曲とね?」と声が聞こえた。



「曲聴いとる時の光ば優しい表情だったばい。そげん好きなバンドっとね?」

「まあ好きですけど…、」



そこまで言うと、ふと脳裏に浮かぶ。このバンドは確かに俺が一番好きなバンドやけど、この曲はライブでやってはった曲ということに気付く。しかも、川瀬さんが一番お気に入りと言っていた曲だった。



「…どげんしたと?」


いきなりストップした俺に先輩が声をかける。「…なんもないっすわ」と返して視線を上に移す。(アカン…また川瀬さんのこと考えてもうた。)最近ずっとこんな調子の自分に呆れてしまう。彼女はただの音楽仲間…友達…、それとも…。



「最近の光は楽しそうばい」

「何がっすか?」

「初々しくてあの子と同じ表情ったい。見てるとおもしろか」

「ハア?」


(この人なに言ってんねん。)
そう思いながら怪訝な顔で先輩を見るとニコニコといつもの笑みを浮かべてはる。



「光は気付いてなかと?」

「さっきから意味わかりませんわ」

「今の光はなぁ…、


…―恋しとる顔ばい」




そう言葉を残して先輩はふらふらとこの場を去って行った。


(恋してる…顔…、)


手元のイヤホンからは依然とハスキーボイスと軽快なギターの音が鳴り響いていた。





鳴り響く音と、
(やけに響く心拍数)



20101025

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