出来るならば自分の領土に足を突っ込まないで欲しい。馴れ馴れしく俺のテリトリーに入ろうとする奴には鬱陶しさを通り越して呆れてしまう。『こんなにも他人の陣地を土足で踏み込んで何が楽しい?』見下した笑みを浮かべてしまう俺は相当ヤな性格をしとると思う。 テニス部の先輩らはほんま要領がええ。きっちりと線が引かれている。なんか上辺だけの付き合いみたいに聞こえるけどそういう意味やない。踏み込んでいい所と悪い所をちゃんと把握してはるんや。だから俺は先輩らといる空間は心地好い。 領土を荒らす奴には制裁を。中途半端に踏み込む奴が一番質悪い。様子を伺うように踏み込み、何もアクションを起こさなければさも正しいかのように入り込んできよる。ほんま何事でも中途半端が一番あかん。イライラするし嫌いなタイプや。 そんなことを考えながらふと自分を振り返る。この一番嫌いな中途半端なタイプが、正に今の自分である。川瀬さんのテリトリーに一歩ずつ踏み込みたいと望む自分。他人にされて一番嫌いなことって案外自分はしてることが多い。ほんま矛盾な生き物や。 そこはかとなく川瀬さんを目で追ってわかったこと。 彼女はいつも一人でいる。 仲のええ友達っていうのがおらんと思う。学校以外やったらわからんけど、たぶんこの学校にはおらん。これは先輩らも言っていた。別に嫌われとるっちゅーわけじゃなく、周りからは一匹狼的なイメージがあるらしい(これは謙也くん情報)。 よく屋上に出没する。 以前おったから『もしかして』と淡い期待をしながら行くと彼女はおった。天気ええ日は屋上に行くらしい。そして時々ここでサボるらしい。週一ぐらいで俺もここへ足を運ぶようになった。喋る内容は相変わらずバンドについて。でも映画やゲームの趣味も似てて共通点は日に日に増えていってる。 「今日部活ないねん。付き合ってぇや」 放課後、川瀬さんの教室へ行くと彼女はびっくりしたような顔で俺を見上げた。 「…いいけど、突然やね」 「よう考えたらアンタの連絡知らんし直接来た」 俺らを見てざわざわと騒ぐのもお構いなしに会話を続ける。何やらもどかしい顔をして一向に動かない彼女に痺れを切らし腕を引っ張る。「早う動いて下さい」と声をかけると「う、うん…」と返ってきた。 ふともじゃもじゃ頭の先輩と目が合った。(あ、そう言えばこの人もこのクラスやったんや。)何やら生暖かい目で手を振る先輩を軽く無視して教室を出る。すれ違う人(主に女)がじろじろと見てくる。その視線にイライラするが、何とか冷静を保った。 駅とは反対の喫茶店へと向かう。大通りの裏手にあるこの喫茶店は目立たないため人が少ない。特に俺らみたいな学生がいないから好都合。席に着くと川瀬さんは一息ついて「財前君て読めへんわ」と呟いた。 「急に教室来るからビックリしたわ…で、どうしたんいきなり?」 「別に用はない。ただ単に喋りたくなったから来た。アカン?」 「…アカンくないよ」 ウエイターが水を持って来た。ついでに俺はカフェオレ、川瀬さんはミルクティーを頼む。心地好く包むBGMに耳を傾けながら彼女を見る。何やら落ち着きがなさそうな様子に口元が緩む。いつも余裕ある川瀬さんやない。俺のせいでこうさせとるんやと思ったらちょっと嬉しくなった。 「…なんで笑ってるん?」 「いや、なんやきょどってるからおもろくて。いつも余裕あるやん自分」 「…いきなり腕掴まれて連れ出されたらこうもなるよ」 「ふーん。緊張してるん?」 「…ほんま、生意気やね」 ジロッと睨むように俺を見つめる川瀬さんにまたしても笑ってしまう。そんな俺に彼女は諦めたかのようにため息をついて外を眺めだした。 (そこは「もう!」とか言いながら紅潮させる場面やろ) (まあ、でもこっちの方がアンタらしい…か) 掴めないと思っていたが空振りばかりじゃない。先程だってその腕を掴めた。今だって…手を伸ばせばその腕を掴める。今は腕だけでええ。でもいずれは……。 「お待たせしました、」 ミルクティーとカフェオレが運ばれてきた。ゆっくりとテーブルに置かれたそれを各々口へ運ぶ。さあ、今日は何を喋ろうか…それともどこかへ行こうか。 予定?そんなん未定や。 甘い香に溶け込もうか
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