昨日本屋で買った音楽雑誌を鞄から取り出し読み耽る。一番後ろの窓際の席っちゅー最高のポジション。クラスメートのやかましい声が気になるから耳にはイヤホン。普段から謙也君や部長と仲がええ俺はクラスの奴とはあまり絡まん。別に友達がおらんわけやない。くだらん話で盛り上がったりしょーもないことして笑ったりもする。でも一人でいる方が何かと楽や。 パラパラと気になる記事だけ読んでいくとこの前ライブに行った大好きなバンドの名前があった。どうやら洋楽ロックのトリビュートアルバムが出るらしくてそのアルバムに参加してるらしい。発売日を見ると今日。一曲しか参加してないけど他の参加バンドを見るとええ感じや。財布を確認するとギリで買える。そうこうしてる間にチャイムが鳴った。 ……………………… 部活後、駅前のTSUTAYAに寄って新作コーナーを見ると隅っこにトリビュートアルバムが置いてあった。それを手に持ちぶらぶらと店内を歩くと試曲コーナーで足が止まる。ヘッドホンを耳に当てながら聴いている…、無意識にその人の肩に手を伸ばす自分。ビクッとして振り返るその人は「あっ…」と声を漏らした。 「前ライブで会った人やんね!うわーこんなとこで会うなんてビックリやわ…」 「…お久しぶりっす」 そう、その人はこの前謙也君とライブに行った時に喋った女やった。あの時と変わらずふわっと笑うその女。自分から肩を叩いたのに言葉が出ない。まず何故声をかけようとしたのか…無意識の自分の行動に不思議に思った。この状況をどうしようかと戸惑うと女が口を開いた。 「あ、そのアルバムうちも買ったよ。なんか参加バンド豪華やんね」 「ああ…ほんまえらい豪華」 「洋楽は疎いし原曲わからんけど楽しみやわ…これ買いに来たん?」 「…まあ」 「ふーん…てか今日は金髪の先輩おらんの?」 「え?…あー、てかいつも一緒の男といたらキモいわ」 「ふふっ、そうやね」 そう話すと沈黙になった。会って二回目の、しかもほぼ赤の他人との気まずい沈黙。もう帰ろうかと思ったが、あのライブの後やけにこの女のことが気になる自分がおった。名前も歳も何も知らん…あの時いきなり姿を消したこの女。なんやろ、何故かこの女のことが知りたい。 「…もしよかったら少し話さへん?」 そう話すとコクっと頷く女。とりあえずレジで会計を済ませて店を出た。すぐ隣にある駅前のベンチに座る。横には女が座っててこの前のライブの風景が目に浮かんだ。 「俺、財前光って言うんやけどあんたは?」 「川瀬ひな。まあ好きに呼んで」 歳を聞くと俺のひとつ上やった。同い年か年下やと思ってたから意外で…敬語に直すと「タメでええよ」って笑われた。謙也君以外に年上の人とタメで喋るのは新鮮かつ不思議な感じがした。好きなバンドについて喋るとやっぱり好みが似てて「こんなに話し合う人初めてや」と言うと、「私もや」と言われた。気付くと小一時間ぐらい経っててそろそろ帰ろうかと立ち上がった。 「財前君てこの近所なん?」 「チャリで15分ぐらい。川瀬さんは?」 「川瀬でええのに。私はすぐ近くやで」 「ほな近くまで送るわ。夜やし一応あんた女やし」 「一応て…よう生意気って言われへん?」 「さあ、どやろな?」 そう笑うと「その笑い方も生意気やわ」と言われた。知り合ったばかりやのに何故か打ち解けてる。普段の俺からしてみるとめっちゃ珍しい。やっぱバンドのファン同士っちゅーのがデカイんかな…。 「送りはええよ、さっき言った通りほんますぐそこやし」 「そか。あ、アド教えてや。また喋りたいわ」 「そやなぁ…ほな今度また会った時に教える」 「は?会った時て、」 「大丈夫。たぶんまたすぐ会うよ…たぶんね?じゃあね」 そう話すと川瀬さんは帰って行った。すぐ会う…?どういう意味やろ…。彼女の言葉を不思議に思いながら後ろ姿を見送った。そして俺もお気に入りの曲を聴きながら家路へと向かった。 いたずらな風が囁く (偶然なのか、必然なのか) 20100924 [*前] | [次#] |