小説 | ナノ


最近少し気になっていることがある。それは同じクラスの一氏君とやたら目が合うことで、日に日にその回数が多くなっていることだ。


それに気付いたのはいつ頃だろうか……恐らく一ヶ月前ぐらいかな?最初はただ単に自然と目が合っただけだと思っていた。電車や街中で他人とすれ違う時、たまに視線が合うことあるでしょ?それと似たような感じで、ごくごく普通の出来事だから気にしなかった。


だけど廊下や下駄箱、はたまた授業中など。一氏君の強い視線を日に日に感じるようになった。私と一氏君はクラスメイトなだけで、挨拶や用件を一言二言交わしたことがある程度だ。私はどちらかと言えば大人しい分類で女の子の友達としか話さない。


一氏君もいつも男の子といて、女の子が話し掛けると素っ気ないというか、何とも面倒臭そうなそぶりを見せる。クールというかぶっきらぼうなその態度も、女の子からしたらモテる要素になるらしい。女子生徒の間では一氏君はクールで大人っぽい人として、ちょっぴり人気があるのだ。私には少し近寄り難い存在だけどなあ…。


そんなわけで今日も今日とて一氏君からの視線をひしひしと感じる。そんな視線無視しようかと思ったが、一氏君の熱くて鋭いその視線を無視なんか出来ず、駄目だと思いながらも一瞬その視線を辿ってしまう。すると予想通り視線の先は一氏君で、こちらから目を逸らさない限りじいっとこちらを見ている。


この行為はどんな意味があるのだろうか?何か私、一氏君に迷惑かけたかな…気に障るようなことしたのだろうか…。その視線は好意なのか悪意なのか、全くもってわからない。




*************





日直当番の私は、ひとり放課後の教室でせっせと日誌を書いていた。日付、天気、今日の授業内容、一日の感想……当たり障りのない内容を書いていく。今頃友達はカラオケに着いて歌ってるのかな。早く書いて私も歌いたい!


そんなことを思いながらペンを走らせていると、後ろの扉がガラガラと音を立てた。誰だろう?と思い振り返ると、そこには最近の悩みの種である一氏君が立っていた。


一氏君は廊下側の席で、私は窓側の席。離れているので挨拶とか、しなくていいかな?
そう思い日誌に視線を戻すと、足音がだんだんこちらへと向かってきた。(…えっ?)と思い顔を上げると、一氏君は私の隣に立ってこちらをじいっと見ている。見ているだけで何も話さないし何も行動がない一氏君。変な汗を流しながら座って一氏君を見る私と、私の机に手を付きながら見下ろしている一氏君。しんと静まり返る教室といたたまれない雰囲気に、「ど、どうしたの…?」と小さく呟いた。



「最近、ようあんたと目が合うんやけど」



いやいやいやっ!
一氏君がじいっと強くこちらを見ているんでしょ?!何を言い出すんだこの人は!!

……と思ってもそうとは言えず、少し間を置いてから「一氏君が、こっちを見ているんじゃないの…?」と弱々しく返した。私が言って何だが、こっちを見てるって自惚れ気味だよね……違う言い方すればよかった。



「ふーん。仮に俺が見てるとしても、あんたもこっち見てるから目合うんやろ?」

「…うんまあ、そうだけど」

「やったらあんたも俺を見てるってことに変わりないやん」



なんだか言いくるめられてるような……ていうか、一氏君は一体何が言いたいんだろ?何がしたい?目的はなに?
再び沈黙が続く。この間も一氏君は私をじいっと見ていて、私はその視線が何だが恐くて、恥ずかしくって、日誌の端をぐりぐりと弄っていた。すると急に一氏君の手が視線に入り、私の手を軽くふわっと重ねられた。



「あんたって彼氏いんの?」

「、えっ?!」

「彼氏、いんの?」

「い、ないけど…」

「好きな奴は?」

「いないよ…ど、どうしたの急にそんなこと聞いて、」

「俺のことは好き?」


いつも女の子と話す時の面倒臭そうな表情ではなく、少し目を細めながら優しくそう問う一氏君。仮にも同じクラスだから初対面ではないけど、限りなく親交がない一氏君を好きかどうかなんてわからない。というよりも、何故そんなことを聞くんだろうか…?
返答に迷っている私に痺れを切らしたのか、一氏君は暫く経って「じゃあ嫌いなん?」と告げた。



「嫌いではないよ!…でも、好きかどうかなんてわからない。というよりも一氏君と話したことないもん」

「ふーん、そっか。…まあええわ。嫌いやないんやろ?ほな好きになって?」

「?」

「てかなれ。今日からあんた俺の彼女な」

「っええ?!」



思わずびっくりして席を立つと、ガタンと音を立てながら椅子が後ろへ倒れた。何が何だかわからない私はぐるぐると思考が回り、そんな私を面白そうに一氏君が見ていた。



「まあそういうことやし。よろしくな、川瀬さん?」



何か言わなくちゃいけないのに言葉が出なくて、そうこうしている内に一氏君は教室を出て行ってしまった。


この時から一氏君はいつも自分勝手で、強引で、そして引き返せないところにまで来てたんだね。




重なり合う視線


20110705



突発的一氏連載始動開始!

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