5万打企画 | ナノ


昔から六月は嫌いだった。

雨ばっかり降るし髪は纏まらないしベタベタとジメジメしてイラッとなる。五月病も抜け出せないし何かと憂鬱になる。

でも今日は久々の晴天。
こんな天気は久々なのでレギュラー達はいつにも増して活き活きと部活に励んでいた。部活を終えた今も、自主練習としてコートでミニゲームをしていた。外からはパコーンと心地好い音と、金ちゃんや謙也の騒がしい声が聞こえる。


「で、なんで一氏は平然と部室にいるの?財前や千歳でさえもまだやってるのに」

「自主練やろ?やりたい奴はやっとればええねん」

「ふーん。レギュラー落ちするよ、そんなんだと」

「アホか。んな簡単に俺は落ちんし負けんわボケ」


長椅子に寝転びながらそう呟く一氏は、先程からファッション雑誌を読んでいる。因みにそれは女性向けで私のである。いや、正確には小春ちゃんから借りているから小春ちゃんのだけど。

恋愛特集!なんて見出しがちらっと見えた。何やら真剣に読んでいる姿が面白い。暫くすると「つまらん」と言う声が聞こえ、雑誌が無造作にぽんっと置かれた。


「恋愛特集てなんやねん。あんなキモい仕種で落ちる奴がどこにおんねん」

「と言いつつも真剣に読んでたじゃん」

「女子を軽蔑しながらな」


この男は何処まで本気なのかわからない。女の子が苦手なのは分かるが軽蔑とは……。彼は本当に男色なのだろうか。いや、でも以前「巨乳はアカン、下品すぎる」とよく分からない論議をしていた。因みに謙也と。(謙也は間違いなく巨乳好きだな。)

そんなどうでもいい事を考えてると、「お前別れたやろ」と今一番聞きたくない言葉が聞こえた。


「…よく聞こえません」

「お前別れたやろ。正確にはフラれたやろ」

「…こうさあ、なんで傷心中に傷をえぐるかなあ」

「浮気現場見たから」

「っ、いつ?!」

「一ヶ月前。駅前で」

「あーもー最悪。まあもう別れたからいいんですけどねっ!別にっ!」

「気付かへんたお前も悪いなあ。勘死んでるんちゃう?」

「一氏、殺されたいの?」

「お前に俺は殺せんやろ」


そう馬鹿にしたような目で訴える一氏にため息が出る。

いやさあ、私だって変だなあ〜って思ってたよ。全然連絡来ないしつかないし。おまけに学校で会っても変によそよそしいし?

でもだからといって、私も問いただすのも嫌だし恐いし。浮気してます、なんて聞きたくないし。まあ逃げてたんだよね。あわよくば自然消滅にならないかな〜、なんて最低なことを考えてたんですよ。

それにさ、ハッキリ言ってマネージャーしながら恋愛なんて出来ない!って思っちゃったんだよ。あの変態部長筆頭に個性的な人集まり過ぎ。マネージャーという部員の子守役の私は忙しいのです。


「子守てなあ、お前が一番こどもやんけ。いろんな奴に迷惑かけながらよう言うわ」

「…返す言葉もありません」

「まああの男も悪いけど。てか見る目なさすぎ。なんでアイツやったん?もっとええ男おるやん」

「どこに?」

「ここに」


ハア?と思いながら一氏を見れば、どや顔でも馬鹿にしたような顔でもなく、何やら真剣な面持ちで私を見ていた。

暫く沈黙が流れる。
(これは、新手の笑い…?)

どう答えればいいのか分からず見つめ合う。その視線が何故か恐くて床に移すと、一氏が小さく「…ごめん」と呟いた。


「自爆したね」

「自爆した」

「こんな滑ってるん初めてみたよ」

「こんな滑ったん初めてや」

「まあ、がんばろうよ」

「お前もな」


雨が降ってるわけでもないのに変にじめじめした空気が流れた。失恋中の私に、失笑中の一氏。外からはパコーンとテニスボールの音。何とも間抜けに聞こえた。


「お前、今なに食いたい?」

「ラーメン。しかもこってりしたやつ」

「…ほな行こか」

「へ?」

「奢ったるわ。失恋記念に」


そう話すと椅子から立ち上がり帰る準備をする一氏。日誌とかまだ途中やけど……と言えば、彼は何やらメモ書きをして日誌を閉じた。


「ほな行くで」

「えっ?いいんかなぁ…」

「大丈夫。もしなんかあったら俺が責任取るから」


その言葉に一瞬胸がときめいた。俺が責任取るから…なんて素敵な言葉でしょうか!そう思いながら部室を後にする一氏を追いかける。その背中はいつもより大きくてかっこよく見えた。ほんのちょっとだけ、ね。




傷心につき、退散


(うわー美味しそう!ほんまこってりやなあ!)
(やろ?あ、因みにここは出世払いでよろしく)
(えっ!奢りやないの?!)
(小春に貢ぎ過ぎて今月もう金ないねん)
(ハ?ほんまありえへんっ!一氏のアホぅ!サイテー!)
(やっぱラーメンうまいなあ)


その頃部室では……


(川瀬とユウジは?)
(おらんなあ、先帰ったんちゃうか?)
(二人一緒に帰ってましたよ)
(ユウ君がなんも言わんと帰るなんて珍しいわねえ!)
(なるほど、こういうことか)
(ん?なんや白石?)

【失恋による傷心につき帰宅します。by川瀬】

(ブッ!っなんやねんこれ)
(謙也、汚いで)
(失恋とかダサいっすわ)
(この字はユウジやなぁ)
(あらら〜。ユウ君も可愛いとこあるやないの!)



Thanks:soraさん!
(友情。マネージャーと一氏)


20110602