5万打企画 | ナノ


ふわふわ、

千歳を表すにはこのオノマトペがぴったりだと思う。

少し青みがかった綺麗な髪の毛。いつも周りを温かく穏やかに包む笑顔。のんびり屋でいつも何処かへさ迷う姿。柔らかい物腰におっとりとした話し方。

全てがふわふわしている。千歳はふわふわで温かい。その優しさに触れるとこちらまで優しい気持ちになってしまう。彼はきっと魔法使いだ。


「うーん、そぎゃんふわふわしとっとね?」
「してるよ。もうふわふわで今にも眠っちゃいそうなぐらい」
「それはひなが眠いからばい。もう少しもたれなっせ」


確かに睡眠不足なだけかも。今は千歳の部屋に遊びに来ている。いつものように隣同士に座っていると、千歳が私の頭をポンと肩へ置かせた。

しかし身長差があるせいか、少しだけ高くてキツイ。千歳も低く合わせてくれているが何だか落ち着かない。


「…違和感?」
「あるっちゃねえ…。布団でゴロンするとね?」
「本格的に寝そうだしやめとくよ。ありがとう」
「うーん……あっ!ここに座りなっせ!」


ぽんぽんとしながら『ここ』と言う千歳。そこは彼の足の間で、小さい子のように挟もうとしているらしい。

言われた通り千歳の間に座る。なんとも言えない懐かしい気持ちになり、それと同時に小恥ずかしい気持ちにもなった。

後ろから覆いかぶさるように覗き込む千歳に「何だか小さい頃に戻ったみたい」と言えば、「ひなは今でも小さかよ?」と言われた。

千歳のお腹に背中を預ければ、程よい筋肉と体温を感じ胸がキュッとなる。横からニョッと腕が伸びるのを見ると、その腕は私の腰周りをギュッと抱きしめた。

耳元からは千歳の吐息を感じて背中がもぞもぞする。思わぬ密着に鼓動も体温も高くなり、千歳のいい香りに包まれてふらふらと眩暈がした。

ふわふわ、ふわ。

千歳の体温に肌を感じると同時にふわふわが私を包んだ。


「ひな温かかー。本当に子供みたいばい」
「そんなことっ、ないよ!」
「小さくて柔らかくて可愛かあー。…食べとうなるばい」
「…っ!」
「ハハ、嘘じゃけん」


からかわれた事に気付き、なおさら顔が赤くなってしまった。そんな私を後ろから覗き込み微笑む千歳は確信犯。こうやってたまに意地悪なことを言う千歳は、嫌いじゃないなあ。

突然、頭に重さを感じた。
コツンと小さな音と共に重量を感じ、ちらっと上を見ようとすれば黒い影。


「あご乗せ〜」


千歳のあごをどうやら私の頭に乗せている、みたいだ。


「ジャストサイズばい」
「へ?」
「あごの位置、高さ、感触…完璧っちゃ!」


千歳が話す度にあごが揺れ、その振動で頭ががたがた揺れる。電源が入っていないテレビをちらっと見れば、私たちがぼんやりと反射して写っている。

千歳の足の間に座る私は小さくて子供みたいで。
あごを乗せてる千歳は嬉しく微笑んでいて。
後ろから抱きしめられている姿に改めてドキッとして。

そんな自分をぼんやり眺めていると、テレビ越しに千歳とバッチリ目が合った。その顔は少しやっぱり、ふわふわした優しい微笑みだった。



ふわふわ、ぎゅ。


Thanks:こしあんさん!
(恋愛:後ろからハグ)


20110529