5万打企画 | ナノ


窓側の前から2番目に座る川瀬さんはいつも読書をしている。賑やかな教室で誰とも話さず黙々とただ本に没頭する彼女は、いつも無表情だった。


決して明るい性格じゃないであろう彼女は、明るくて賑やかなクラスで一際異彩を放っている。話しかければ無視することも嫌な雰囲気を出すこともないが、口数が少なく必要最低限のことしか話さない。いじめられてる様子も嫌われてる様子もないが、周りからは少し距離を置かれていた。かくいう自分も、彼女は近寄り難い存在だった。



「なあ白石。川瀬さんと話したことある?」


「隣の席になった時に少しは話したことあるけど、どうしたんや急に?」


「いや、別に何もないけど」



彼女へと視線を移せば、いつものように少し俯きながら読書をしていた。誰とも話さず黙々と読書をする彼女。笑うこともなくいつも無表情で、そんな毎日は楽しいのだろうか……そんな彼女は孤独じゃないのだろうか……?




*************





昼休み、担任に呼ばれた白石は早々と何処かへ行ってしまった。することが特になく、このまま教室にいてもいいが何となく後輩がいるであろう図書室へと足を運んだ。



「よっ、光。ちゃんと仕事してるかー?」


「謙也さん…なんでいるんすか?」


「そんな嫌な顔しんなや。可愛くないなぁ〜」


「別に謙也さんに可愛いとも思われたくありませんわ」



カウンターで雑誌を読みながら音楽を聴いていた光は、俺を見るなり呆れたような面倒臭い顔をした。まあいつものことやから気にせんけど。カウンターの中へ入り少しふわっとしてる椅子に座った。


図書室を見渡すと殆ど人がいなくて、光が怠そうに仕事をしているのも無理ないなと思った。(まあ正確にはなんも仕事してないけど。)


隅っこの椅子に座っている生徒に見覚えがあり、目を凝らしてみればクラスメイトの川瀬さんだった。昼休みになるとふらっと姿を消す彼女。(なんや、図書室に来てたんか。) 少し俯くその姿が教室と同じで、なぜか少し笑ってしまった。



「なん一人で笑ってるんすか、キモいですよ」


「なあ、あの女の子っていつも此処におんの?」


「あー、川瀬さんなら多分いつも来てますよ」


「…なんで名前、」


「よう借りてはるから覚えてしまいますよ」



適当に本を読んでるとチャイムが鳴り響いた。平然と動かない光に声を掛けると「サボる」と返ってきた。


図書室を後にすれば川瀬さんが前を歩いていた。すると彼女の腕から何かがひらっと落ちた。落としたことに気付かない彼女はそのまま歩き続け、何だろう?と拾ってみればアンティーク調の栞だった。



「川瀬さん!」



そう呼びながら彼女のもとへ行くと、後ろを振り返りいつものように無表情な彼女が立っていた。さっき落としたで、と栞を差し出しながら告げる。すると彼女は「あ……、」と呟いた。



「ちゃんと挟んどかな何処まで読んだか分からんくなるで」


「146頁の5行目」


「えっ、覚えてるん?」


「大体だよ。でもこれ気に入ってるから助かった…」



そう話すと川瀬さんが栞へと手を伸ばした。間近で見る彼女の手は小さくて指も細く、自分の手とは全然違っていた。栞を大事そうに本に挟むと何故か彼女はその場を動かない。そのまますぐ去るだろう思っていたのに予想外。
もうすぐ授業が始まるというのに動かない彼女が不思議で「…どうしたん?」と小さく声を掛けた。



「栞ありがとう、忍足君」



目を見ながらそう囁く彼女は、いつものような無表情ではなく、少しだけ……微笑んでいた。そう言葉を残すと歩き出し、曲がり角で彼女の姿が見えなくなった。


今度は呆然と立ち尽くす自分がいて、瞬時に身体が熱くなった。その手は小さくて女の子で……俺の名前を知ってたことに驚いて……そして、少し微笑んだ顔が可愛くて、びっくりした。



「あれはアカンやろ……」



予想外の微笑み。いつもは無表情で本と睨めっこしている川瀬さんが、あんな可愛い表情をするなんて……。


少しぎこちなくて控えめな微笑みに……どうやら俺はヤラれたらしい。





目眩く反則
(あの笑顔は反則やわ)



Thanks:楓さん!
(読書家ヒロインに片思い)


20110515