5万打企画 | ナノ


今日泊まりに行っていい?


そんなメールが届いたのはつい先程。午後の講義をうとうとしながら受けていたら携帯が振るえ、ディスプレイに『白石蔵ノ介』と表示された。日中に、しかもお泊りの連絡が来ることは初めてで胸がドキドキと鳴る。研究の発表で忙しい彼とはなかなか連絡がとれなくて、ここ最近は一日に数分電話が出来るか出来ないかだった。震える指先を落ち着かせ、了解のメールを送信した。


一人暮らしの家に帰ると、とりあえず部屋を掃除して夕飯の準備に取り掛かる。何時に来るかは分からないし、夕飯だって食べてくるかもわからない。だけど念のため二人分準備して、白石君が来るのを今か今かと待ち侘びていた。


一時間……二時間……三時間……気付けばもうすぐ午前0時を回ろうとしている。



「……研究、長引いてるのかな…。」



メールも電話も一向に来ず、用意した料理もとっくの昔に冷めてしまった。さすがにお腹も減ってきたので一人で夕飯を食べてお風呂に入り、何時も通りの生活へと戻ってしまった。


こんなにも遅くなると、少しばかり不安が頭を過ぎる。もしかしたら何かあったんじゃないか……事故に、事件にあってるのではないか。(そんなこと、ないよね?)そう自分に言い聞かせてみるもモヤモヤが心を狂わせる。


すると突然インターホンが鳴り響いた。玄関へと急いで走ると、そこには少し頬が赤くなった白石君が汗ばみながら立っていた。


「っ、白石君!」
「遅なってごめんな。携帯の電池なくなって連絡とれんかったねん」



ゴメンな?と謝りながらも頬を緩ませてギュッと私を抱きしめる白石君。少し息が乱れているのは此処まで走ってきたからなのだろう。久々の感触と香りに包まれると、さっきまでの不安はどっかへ吹き飛び……安心と同時に少しだけ涙が出そうになった。



*************




「遅くまでお疲れ様。研究だったの?」
「ああ。発表が今日終わって打ち上げしてたねん。ほんまはもっと早く帰るつもりやったんやけど、なんや教授に捕まって延々話し聞かされてたわ」
「ふふ、気に入られてるんだね」
「有り難いことに、な」



久々に会う白石君は顔色が悪く、少しやつれた気がして心配になった。飲み物の準備をしにキッチンへ行って戻ってくると、白石君はベッドに倒れ込んだように横になっていた。



「白石君、大丈夫?」
「……なんや最近眠れんくって。研究が忙しくて睡眠時間とれへんかったのもあるんやけど、眠れへんたねん」
「もしかして……不眠症?」
「かもしれん。寝ようとするとな、ふっとお前の顔が浮かんできて……思えば思うほど逢いたくなって眠れんかった」



そう話すと白石君は上半身を起こして私を見ながら「それほどひなに逢いたかってん」と囁いた。目を細めながら私を見上げる綺麗な瞳、全身から溢れ出る色気に甘い声……ドキッと胸が締め付けられた、その瞬間。「っ、ぅわ!」グイッと腕を引っ張られてベッドへとダイブした。



「ひなは俺に会えんくて、寂しかった?」



……もちろん、寂しかった。夜中に何度電話をかけようとしたことか、会いたいとメールを打って何度消去したことか。どれほど会いに行こうか悩んだことか。声に出すのが恥ずかしくて、悲しくって、コクコクと小さく頷いた。



「そっかぁ……寂しい思いさせてごめんな?でも思いが一緒やって、ちょっと安心した」



おでことおでこをコツンとぶつけながら、小さく、そう白石君が囁いた。私の胸元に顔を埋めながら幸せそうに微笑む彼を見て、普段は見せない甘えたな彼の一面にちょっぴりびっくりした。そしてちょっぴり、嬉しくもなった。



「白石君、とりあえずジャケット脱ごうよ?シワついちゃうよ?」
「……白石やなくて名前で呼んで」
「……蔵君、ね?」
「あとで脱ぐ…よ……」



そう呟いた数分後、すやすやと寝息が聞こえて思わず小さく笑ってしまった。何でも完璧で優しい彼に私はいっつも甘えてばかりだけど、今の蔵君は無防備なほど私にべったり。いつもと立場が逆転していて、それでも私の前でしか見せないであろうその姿に愛おしさを感じた。


ふんわりと優しく蔵君の頭を撫でながら私も布団に潜り込む。久々の彼の体温は温かく、それ以上に彼の隣にいる心地よさを噛み締めた。触れるだけのキスを落としてゆっくりと瞼を閉じた。


あしたになったらいつものように完璧な彼になっているのかな?たまにはね、こうやって私に甘えてもいいんだよ?



優しさに抱かれて


(昨日はごめんな?あんな時間に押しかけて…)
(白石君ならいつでも大歓迎だよ)
(ありがとう。……久々に会えたことなんやし、今から愛し合おうか?)
(…っ!)
(昨日は俺が甘えてしまったかならなあ。いっぱい甘えさせたるよ?)



Thanks:あやさん
リクエストありがとうございました!お相手白石君でしたがこんなお話でよろしいでしょうか…ふ、不安です。


20110507