ユウジ君と、喧嘩した。 付き合って三ヶ月という微妙な時期。お互いのことが段々と分かってきて、良い部分も悪い部分も見え隠れしてくる時期。3がつく時期は別れやすいって誰かが言ってたなあ…なんてふと思い出した。 喧嘩の原因は実に些細なことだった。すれ違いとも譲れない部分とも言えるけれど、さほど大した問題じゃなかったはず。だけど少なからずお互いに蟠りがあったのだろう。売り言葉に買い言葉みたいな激しい喧嘩じゃなく、冷戦のごとく冷たい空気が流れている。 「もうええわ」 そう彼が言葉を残してから一言も話していない。違うクラスで階も違うから学校で会う機会は少ない。連絡もしない、顔を見ない日がもうすぐ一週間になろうとしている。 もともと私は不安でいっぱいだった。何故彼は私を選んだのか。 ユウジ君は個性的で容姿も整っている。あの性格だったらお姉さん気質の人だったり、何でも言い合えそうなさっぱりとした性格の人がお似合いなはず。だけど私は至って普通でどちらかと言えば引っ込み思案なタイプ。好き嫌いがはっきりしてる彼からすると、私みたいな優柔不断なタイプは嫌いなはず。だけど、彼は私に告白したのだ。 『なんで私なの……?』 以前そう聞いたら「つまらんこと聞くなや」とあしらわれた。日に日に感じる不安や不信感、そして私のいつまで経っても(悪い意味で)変わらない態度とかに痺れを切らしたのだろう。 本当は私だって甘えたいし我が儘みたいなことだって言いたい。でも、無愛想な態度だったり独特の雰囲気のユウジ君を目の前にするといつも縮こまってしまう。謝りたい、仲直りしたい。だけどその勇気がない。そんなことを考えながら今日に至っている。 「先輩て案外弱いっすね」 「今日は調子悪かったんや」 「ふーん。てか付き合うほど俺かて暇やないんすけど」 「後輩やろ。こんぐらい付き合えや」 「ほんまウザいっすわ」 部活後、半ば無理矢理ゲーセンへと光を連れ込んだ。むしゃくしゃする気持ちをどうにかしようと久々に格ゲーやったけどボロクソに負けた。普段やったらもっと強いのに…。最近どうも調子が悪い。テニスやったり笑いやったり……それもこれも原因はひとつ。俺かて分かってる。だけどああやって言葉や態度をぶつけた後、どのようにひなと会えばええんか分からんでいた。 不満なら少なからずあった。 部活が忙しいのは本当のことで、まともなデートらしいデートやって一回も出来てへん。部活や小春とのネタ合わせやったり、白石や謙也と遊んだり、そんなこんなで全然ひなに構ってやれんかった。 アイツ達との時間をさけば、ひなと過ごす時間やって作れた。やけどいつもひなは自分やなくって部活やテニス部のことを優先させた。物分かりの良い彼女、と言えば聞こえはええけれど、俺との時間はいらんのかって思うようになった。 ひなは聞き分けが良すぎる。俺の為を思っての行動かもしれんけど、それは返って俺を不安にさせた。 「あ。あれって先輩の女ちゃうんすか」 「ああ?」 「あっこにおる制服の人」 光の視線の先には制服姿のひなが歩いていた。周りには友達っぽい奴もおらんし、どうやら一人でいるっぽい。 「ひな……」 「先輩のんやろ?行かんでええんすか。一人っぽいで」 「……」 「あの人て結構かわええっすよね。あーかわええー。調度一人やし持ち帰りたいわー」 「殺すぞ」 「ほな早う行ったらどうですか。ツンデレはデレがあるから成り立つんすよ」 ほな。と言いながら別の方向へ歩き出す光を横目に俺はいつの間にか駆け足になりながらその場を去っていた。反対側にいるひなの後ろへと着くと、その華奢な腕をおもっきし後ろへ引っ張る。 「ひな!」 「キャっ…!っ、ユウジ君」 「お前なんぷらぷら歩いとんねん!何時やと思ってるんや?アホかお前!」 「え……?」 「こんな時間に女一人で歩いてたら危ないやろ。てか普通わかるやんけ!……ったく」 ポカンとしてるひなの頭を軽く叩く。「イタっ、」と呟くひなをおもっきし睨みつける。あーもう、なんやねんコイツ。こんな夜遅くに制服で一人歩いて奴がいるかアホ。 「家まで送る。早う行くで」 「い、いいよ!お家反対方向だし……一人で帰れ、」 「なんやねんお前。なに?まだ俺を怒らせたいんか?」 「っ!……。」 「わかったんなら帰んで」 そう言うとひなは俯いてその場から動かなくなった。声をかけるも一向に動かない彼女にイライラして俺は軽く舌打ちした。痺れを切らしてひなの傍へ近寄り顔を覗くと、彼女は目を真っ赤にしながらぽろぽろと泣いていた。 「ひな……?」 いきなり泣き出した彼女。何が何だか分からず肩に手を伸ばすと、ピクッとひな体が震えた。そして今にも消えそうな弱々しい声で「こわい」と彼女は呟いた。 「……っこわい、」 「ひな…?」 「ユウジ君がわからない……こわいよ」 「何がこわいねん。俺の態度か?言葉か?…なあ、」 「ごめん…もう今日はほんと、帰れるから」 真っ赤な目を手で擦りながらそう話すひなに不安が襲い掛かる。(アカン、なあなあにしたら、俺とひなは終わる。)後ろへ退く彼女の肩を再びそっと触れ、腫れ物に触るかの如くゆっくりと抱きしめる。再び涙を流す彼女が落ち着くまで、それは短時間だったが重く長い時間に感じた。暫くすると泣き止んだひなは再びごめん、と呟いた。 「なあ、何がこわいんや?俺とお前はすれ違ってる。俺はこんな所で躓くなんて嫌や。ひなが思ってること教えて?」 刺激しないよう、そして俺自身も落ち着かせるようになるべく優しい口調でそう告げる。俯いているひなの顔を、愛らしいその顔を見たい。 「自信が持てないよ…。私はユウジ君の彼女だよね…?でも、私はこうやって引っ込み思案だしうじうじしちゃうし、正直何で私なのかが分からないよ」 「うん。…ほんで?」 「どう接したらいいのかわからない……」 ああそうか。俺もお前も同じことで悩んでたんやな。俺かってお前にどう接したらええんかわからへん……お前のことを好きになればなるほど、どうしたらええんかわからんで。 「……正直に言うで。確かに俺自身もお前のどこが好きかって言われるとわからへん」 そう告げると彼女の大きい瞳が尚更大きくなり、目にはうっすらと涙が滲んだ。ズキ、と胸が苦しくなったが、それでも俺は言葉を続ける。 「でもな、お前のその控え目なとこやったりうじうじするところか、どうしょーもないぐらい愛しいねん。普通の女なら腹立つ行動でもひなやったら好きやねん。理由なんかわからん。お前やから……それだけや」 「……うん」 「あーどう言ったらええんかわからんから率直に言うで。お前は遠慮し過ぎでそこがたまに傷。俺としてはもっと頼ってほしい。てか何でもテニス部優先させるお前がムカつく」 「……っ、私だって。私だって、たまにはテニスばかりじゃなくて、一緒にいたいと思うもん……。〜〜っ、私だって甘えたいとき……あるもん」 消え去りそうな、それでいて伝えたいという思いが篭った声が俺の耳に届いた。コイツはほんま、アホでアホで……あー…ほんまアホや。 「アホか」 「痛っ!…そうやってアホとか叩いてくるところも苦手…こわいよ」 「愛情表現やわ。こんぐらいわかれや」 「わからないよ!」 「……俺はお前が好きや。これだけは覚えとけ」 なんか今更になって恥ずいことしてるんに気付いて顔を背ける。あー、なんでこうも好きや好きや言わなわからんねん。そう睨むと困りながらもほのかに紅く染まったひながおる。ほんまアホやコイツ。なんやねん……ほんまよかった。 「ったく寒いっちゅーねん。ほら、帰んで?」 「……うん」 「風邪ひいたらお前のせえやで。責任持って看病せえよ」 「ユウジ君」 そう名前を呼ばれてひなの方を向くと小さい声で「ユウジ君のあほ」と言われた。あーもーなんやねんコイツ。めっちゃかわええ。ほんまにアホなんは俺かもしれんな。 そんなお前が悪い 20110304 Thanks:さくらさん ケンカップル (無駄に長くなりすみません) |