5万打企画 | ナノ


千歳は自由気ままな猫みたいだ。気分が乗らないと授業は疎か部活まで休んでそこら辺をほっつき歩いている。


楽しい時はこどもみたいに純粋な笑顔を見せるが、興味ないことや面白くない時は大人面のような能面のような、如何にも興味ありませんっていう顔をする。嫌な顔はひとつもしないが、その代わり自分の世界(無我だったり瞑想だったり)へすぐさま旅立ってしまう。


そんな猫みたいな千歳は今、ベッドの上で私の体をがっしりと抱きしめている。いや、抱きしめるというよりもシートベルトの如くガードしているみたいだ。


「千歳、さっきからどうしたの?ちょっと痛いよ」

「……」

(……シカト?!)


先程から何やらムスッとしていて私の問いかけに答えてくれない。今日は部活が休みだから朝から一緒に仲良しこよししていたのに……何がそんなに不機嫌にさせているのか全くわからない。


声を掛けても服をきゅっと引っ張っても反応がない。千歳の頬へ腕を伸ばし、つんつんと突いてみれば指を噛まれそうになった。全くもって一体何がしたいのだろう、この猫さんは。


「千歳?……黙っててもわかんないからどうしたのか言ってよ?」

「もう夕方やけん」

「うん?」

「直に夜になって明日が来るけん。そぎゃんなるとまたいつものひなに戻るばい」


(いつもの私?)
何が言いたいのか分からず千歳の顔をじっと見る。拘束もとい私を抱きしめていた腕が緩み、私と彼の間が少しだけ離れてた。


「明日になればまた皆のひなに戻るったい。マネージャーのひなは好きじゃけど嫌いばい。ひなは俺のばい…」


そう千歳は呟いて私の胸へ頭をぐりぐりと押し付けてきた。ほんのり青みがかったもじゃもじゃの髪の毛が胸をこそばせる。ふわっと頭を撫でれば、千歳は上目遣いで私を見上げた。


「それは嫉妬?」

「嫉妬っていうより俺のわがままばい」

「それを嫉妬っていうんだよ。もー、かわいいなあ」


わしゃわしゃと撫で回せてから、ギュッと包み込むように彼の身体を抱きしめる。大きな彼の身体は私の腕じゃ足りなくって…それでも千歳は満足げな表情をした。


いつもの私っていうのはよく分からないが、千歳だって皆の前じゃ全然違う。こんな風に甘えたりしないしいつも余裕な立ち振る舞いをする。コートにいる彼は今此処にいる彼とは全然違う別人に映るし、何よりも私のことなんか微塵も考えないかのようにテニスに首ったけになる。それがちょっぴり悲しかったり不安になったりするけれど……でも、テニスをしている千歳は大好き。だからそんなこと言われてもなあ…。


「白石はセクハラ親父じゃけん、もっとガードを固くしなっせ。金ちゃんにも飛びつかれんよう気をつけなっせ。それに小春だって男ばい、あんまし女友達みたいに接してほしくなか…」

「ひどい言われようだなあ、白石」

「本当のこつばい。無邪気なひなはガードが弱か」

「…以後、気をつけます」

「あともう一つ。…もっと俺だけを見てほしか」


ちらっとこちらを見ながらそう呟く千歳。(ああもう、なんてかわいいんだろうこの子は!)
いつもはこんなこと言わないのに今日はやたら甘えたさんな彼に、母性本能というかまるで我が子のような愛らしさが倍増してくる。


「私はいつも千歳だけ見ているし……千歳のものだよ?」


そう千歳に言うと、まるでこどもみたいに無邪気な笑顔を私にくれた。大人みたいな千歳も、甘えん坊な千歳も、全部ひっくるめてあなたが一番好きだよ。




きみがすき
(だから不安にならないで?)



Thanks:あおさん!
(恋愛:千歳に甘えられる)


20110622