5万打企画 | ナノ


「うわ、酒臭っ。お前どんだけ飲んだねん」


私を見るなりそう顔を歪ますユウジ君に『ここまで飲ませた原因はあなたのせいだよ!』と、心の中で悪態ついた。

久々に来たユウジ君の部屋は相変わらずお洒落で綺麗で以前よりインテリアが少しだけ増えていた。上着を脱いでソファーに腰をかければ、水が入ったコップを持ちながら彼がこちらへとやって来た。


「これ飲んどき」

「ありがとう。そんなに酔ってるように見える?」

「どっからどう見ても酔っ払いやわ」


呆れた声で話す彼は、私の上着をハンガーにかけてクローゼットに片付けた。こういう神経質というか綺麗好きなところが相変わらずで、いつものユウジ君だなあ…と少し安心した。

足元に座る彼を見ればTシャツにジーンズと普段着のままで、帰ってまだ時間が経っていないことに気付いた。


「今帰ったところなの?」

「ああ。なんや予想以上にライブ長かったわ」

「そっか…楽しかった?」

「もちろんや。やっぱ生はええなあ。初期のアルバム曲演りよってめっちゃテンション上がったわ」


そう淡々と話すユウジ君だけど、表情は少しだけ明るくなってることに気が付いた。ほんの少しの変化だけど、付き合いが長いだけあってその変化を感じとれる。


(…楽しそうでよかったね)


そう素直に思えないのは、壁に飾られている写真を見てしまったから。

大学の友人と楽しそうに写っているユウジ君。私の知らない人と、私の知らない場所で、私の知らない大学でのユウジ君が写っている。


「この写真は?」


一枚の写真へと指を指す。その写真を見るなり「サークル合宿。先月行ったって話したやつや」と答えてくれた。


「結構人数多いんだね」

「普通ちゃう?合宿っちゅーか飲み会みたいやったけど」

「ふーん…そうなんだ」


写真には男の子もいれば、もちろん女の子もいるわけで。私よりも可愛い子や綺麗な子が楽しそうに写っている。ユウジ君と密着しながら笑顔を浮かべる女の子に『どう、お似合いでしょ?』と言われてる気分になった。

こんなことをイチイチ気にしていたらキリがないって分かってる。ユウジ君だって女友達もいれば、気兼ねなく話せる仲間だっている。

でもね、つまんないの。
私以外の誰かと楽しくしているなんておもしろくないの。


「ユウジ君はいつも楽しそうだね。サークルも入っているし友達も多いし」

「ひなも入ればええやん」

「女子大のサークルなんて合コンみたいなもんだよ?みんな男の子との出会いの場を求めてるもん」

「いかにもって感じやな」

「いいよね、楽しそうで。私といるよりも友達といた方が楽しいんじゃない?ほら、この写真のユウジ君とっても楽しそう」


写真の中のユウジ君は私が知っているユウジ君じゃない。今此処に彼がいるのに、私とユウジ君の間には見えない壁が出来ている。

ふと床に座ってるユウジ君から視線を感じ足元を見れば、ものすごく不機嫌な顔で私を睨みつけていた。


「なんそれ?お前なん言ってんの?全然おもろないわ」

「私だっておもしろくないよ。いつもほったらかしにして全然構ってくれないし…久々のデートもドタキャンされて…全然楽しくないよ…」


そこまで言うと胸がギュッと締め付けられ、言葉にすることで尚更哀しさや怒り、そして切なさが込み上がってきた。

目はジンと熱くなるし咽もカラカラで咳込みそう。お酒のせいで体温は上昇する一方で、もやもやと言葉のない塊が心をズキンと痛みつける。


「ユウジ君は私なんかと会わなくったって大丈夫なんだ…平気なんだ…」


わかってるよ?
ただの嫉妬だってこと。

でもね、男の子でも女の子でも…友達でもサークル仲間でも。私以外の誰かと仲良くしていたら悔しいんだもん。

我が儘だってこと、ちゃんとわかってるけど…寂しいよ。


暫くするとユウジ君の溜息が聞こえ、床からソファーへ移動して私の横に彼は座った。俯く私の顎を掴まえ、グイッと上に向かされる。

すると勝ち誇ったような満足げな、それでいて少し嬉しそうな悪い顔をしたユウジ君と目が合った。


「なんや、嫉妬してるん?」


ニヤッと悪い笑顔を浮かべるユウジ君に、これでもかってほど…いや、少しだけ敵意の目で睨み返した。

いつもならこれで許してしまうけれど今回はそうはいかない。こういう悪い態度のユウジ君もキライじゃないけど、何時までもそんな態度ばかりじゃ不満が積もる。

俺様で優位に立ってる彼も好きだけど、そればっかりじゃ不安になる。私がいなくても彼は不安にならないのか…会いたい寂しいと思わないのか…私じゃなくて代わりの子はいるのか…私のことを、愛しているのか…。

ぐるぐると渦を巻く不満に不安、そして好きでいてほしい願望。そんな心情の私を、何やら神妙な顔でじーっと見つめる彼。


「そんな泣きそうな顔で見んなや」

「泣きそうになんかなってないもん。これは怒りと憎しみの表情だもん…」

「ふーん。ほなえらい可愛いらしい怒りと憎しみやなあ」

「っ!ユウジ君なんかずーっと友達といればいいんだ!人でなし!ロクデナシ!傲慢!俺様!」

「で、それからなんや?」

「〜〜〜っ、」

「そんな人でなしでロクデナシの傲慢な俺様が、ひなと居たいって言ったらどうするんや?」


グイッと無理矢理引っ張られると、気がつけばユウジ君の腕の中に押さえ込まれた。香水混じりの煙草の匂いや細くて品やかな筋肉に、目の縁に映るカラーリングされた髪の毛…。全てがユウジ君そのもので、恋しくて恋しくて待ち焦がれていたユウジ君がいた。


「……悔しいけど、嫌いじゃない」

「なんやそれ。もっとわかりやすう言って?」

「……好き」

「俺も好きやで」

「……、」

「なんやその不満そうな顔」


好き、と言われるのは嬉しいけれど…今の私じゃ満足出来ない。好きよりももっと確かな、もっと胸に突き刺す言葉が欲しい。嫉妬も我が儘も全て吹き飛んでしまう、ユウジ君の心が欲しい。

すると優しく包み込むかのように抱きしめられ、耳元からユウジ君の吐息を感じる。少し困ったような落ち着きのない表情をした次の瞬間、


「あいしてる…、」


小さくて、だけどしっかりとそう告げる声が聞こえた。顔を見ればバッチリと目線が合い、優しく綺麗に微笑むユウジ君が広がった。

たった5文字のその言葉に、胸のつっかえが自然にぱらぱらと剥がれ落ちた。さっきまでの哀しみが嘘のように今は心が温かい。

どちらともなくふれるだけの口づけを交わせば、「ったく、自分なんやねん…」と斜め後ろを見ながら少しだけ照れ臭そうに困った顔のユウジ君が呟いた。




please please me...
(時には優しく抱きしめて…)



Thanks:柚子さん!
(恋愛、嫉妬する彼女に困惑)


強気な態度は不器用ユウジの精一杯の強がりです。


20110609