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2011/05/30 02:34


何気ない笑顔が好きだった。その心に触れたくて必死に自分をアピールした。おはよう、さようなら、なんて挨拶を交わして少しでも近付きたかった。交わす言葉は少しずつ増えてきて、何気ない会話をできるようになった。


相変わらずその笑顔はいつも俺の心を擽らせた。少し照れながら、控えめに微笑む彼女は天使に見えた。天使だった、彼女は俺の……天使だった。


俺は何にもわかってなかった。少し仲の良いクラスメイトなだけで、彼女の苦しみや悲しみに触れることは出来なかった。ただただ普通の女の子だと、思い込んでいた。



「あの子?あー…やめといた方がええで。お前のためや」



そんな言葉が俺にぶつけられた。なんで、どうして、お前は彼女の何を知ってる?…その答えは教えてくれなかった。でも、ひょんなことからその答えを彼女から聞くことになった。


彼女には恋人がいた。そう、過去形なのだ。恋人は不幸にも不慮の事故に遭い、もうこの世界にはいないのだ。


祖父の墓参りに家族と行ったら、黒服を身に纏った彼女がいた。いつものような優しい表情ではなく、能面のような冷たくて、切なくて、哀しい、無表情だった。



三回忌なんだ
もうそんなに経ったんだって
変だよね、時間がないの
ずっと止まってるみたい
まだね、まだ何処かにいるような気がして
服も、髪型も、化粧も…
全てが変えられないの
私だよって分かるように
もう、いないのにね
でも待ってるんだ
また逢えるように祈ってるの




涙が出た。
彼女ではなく、自分から。


そんな事があったのなんて知らなかった。そんな思いをしていたなんて知らなかった。そんな哀しい声なんて知らなかった。そんな死んだような…苦しい顔をするなんて、知らなかった。


自分の浅はかさを痛感した。彼女は汚れを知らない天使だと思っていた。幸せに満ちた、ただただ普通の女の子だと思っていた。


それは自分が願った彼女の理想像であって、自分が造った偽りの彼女だったんだ。実際の彼女はこんなにも苦しんでいて、絶望の淵にいて、亡き人に想いを馳せていたのだ。


今まで好きで好きで幸せに満ちたその笑顔も、ホンモノの笑顔ではないのかもしれない。天使のような彼女は、悲しみに泣いている女の子だったのだ。



「ねえ、逢えるかなあ…もう一度。どう思う?」


「逢いたいんやろ?」


「…もう一度、逢いたい。もっといろいろ話したかった。もっといろいろ遊びたかった。もっといろいろ……もっと、ありがとう、大好きって、言いたかった」



天使の彼女が泣いている。黒服に身を包み、心までも真っ黒に覆われてるように見えた。


そう、彼女は天使なんかじゃなかった。


人間なんだ。俺も、彼女も。


だったら…でも、いや、だからこそ。俺は彼女の天使になる。その苦しみも切なさも汲み取れる、彼女だけの天使になってやる。


人間だ、俺は。
食べて寝て吐き出して欲に塗れた…そんな当たり前の人間だ。好きなものも嫌いなものもある、偽善に満ち溢れた人間だ。


でも、彼女を幸せに出来るのであれば天使にだってなってやる。



「…キミの天使になってもいいですか?」



そう告げると彼女は一瞬目を見開き、いつものように控えめな笑顔を見せてくれた。




天使のほほ笑み
(俺がキミを救ってみせる)



20110530



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