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2011/05/21 00:22


彼はいつも遠い世界の人でした。同じ教室で同じ学校、同じ世界に存在しているはずなのに、彼は一際輝いて見えました。テレビの中の有名人みたいな憧れの人で、最も的確に言うならば漫画かアニメのような美しい容姿を纏っていました。そうです、彼は異次元の人であり、全く人間味がなかったのです。

遠巻きにしか眺められない私に対し、周りの人は彼と少しでも仲良くなろうと必死に機会を窺っていました。その美しい容姿は多くの人を引き寄せ、大いなる魅力を振り撒いていました。そんな彼は皆から愛されていました。

だから、誰もいない教室でひとり呆然と涙を流す彼が不思議でなりません。薄暗い教室で、彼は静かに涙を零していました。何に対して涙を零しているのか、喜び・怒り・悲しみ……どのような涙かは分かりません。

その姿は想像を絶するほど美しく、とても儚く、涙をもってすら一種の絵になって、思わず息を呑んで見入ってしました。

だけど同時に悲しい気持ちにもなりました。彼はこんな姿ですら人間味がないのです。感情が全く、感じられないのです。もしも仮に悲しみの涙であれば、美しいと感じてしまう私は、彼にとって残酷な人間になってしまいます。それはとても悲しいこと。彼にとって悲しいことです。自分の感情が伝わらないことは、自分の意志を分かってもらえないのだから。

だからどうか彼を有名人でもアニメでも漫画でもない、人間として愛せる人が近くにいますように。彼の感情を汲み取れる、心許せる相手が彼に現れますように。ひとりで泣く彼の側に、そっと肩を叩ける相手がいますように。

彼の肩を叩けない私は、その相手にはなれません。だからどうかその相手と彼が出会えるよう祈るしか出来ません。彼がどうか、こうやってひとりで泣かない為に……。


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