小説 | ナノ



なんというか、
本当にあっけない。



「なまえ、それ終わったら買い出しに行ってくれるかい?」

「はい、わかりました!」



次の仕事が入ってきたので私は洗い物のペースを上げる。
積まれた食器の楽しげにゆれる泡を横目で見ながら思うのは、ただ1つの心残り。

結局勇者と会うことは結局できなかったなぁ、って。
狼状態とかハイラル城でのことを出会いのカウントに入れたとしてもお話することができなかったなぁ、って。

………私がチキンなのが全ての原因なんですけど。





ハイラルが平和になって早数日。
驚くほど城下町に変化はない。
ここがトワイライトになってたことなんてここの住民は誰も知らないし、ハイラル城での出来事さえも知っているのはごく少数。
しかもそれらは私達の生活に直接関係がなかったってのもあるのかもしれない。…ゾーラの水源が凍って水が出なくなった時は結構危なかったけどさ。
しかし今はまったくそんなことなんてなかった様に誰もが振る舞う。

この平和が緑の勇者のおかげであることを知ってる人はいても、影の黒幕であるガノンドロフを倒したおかげだと知ってる人はきっと当事者を除いたら私くらいだと思う。別に誰かに言うつもりもないんだけどね。


蛇口をひねり水を出す。勢い良く流れる水で食器をすすいでいく。

そういえば光の勇者は冒険が終った後ってどうしたんだろう?
大体どのシリーズでも勇者はハイラルを旅立つENDが多いが、彼もそうなのかな?
でもあのエンディングはトアル村に帰ってるようにも、逆に出ていってるようにも見えた気が……。

ちなみにレジスタンズのメンバーは遺蹟の調査とかで一昨日から出払っている。
たぶん迷いの森の奥にある時の神殿跡地?にでもいるんだと思う。
私も行きたかったが、一応居候をさせてもらっている身なので遠慮しました。酒場のお手伝いもありますし。

よし、洗い物はこれで終わり!

もう大体買い出しで何が必要なのかわかるようになってきたが、酒場に来る人数で細かい数は変化する。
それは店主であるテルマさんが決めるものであるから、私は従うだけ。

どこかにある買い出しのメモを探してキョロキョロとしているとにゃー、という可愛らしい鳴き声がした。
その方向を見れば予想どおり、真っ白ボディが今日も素敵なルイーズがいた。
彼女は近くにあるテーブルの足をしきりに触っていた。
そこに何かあるのかと近づいてみると、テーブルの上に探していたメモと小さなお財布が。



「あっ!ルイーズ、ありがとうね。」



どういたしまして、と答えるように彼女が短く鳴く。

さっそく私はメモとお財布を携えて外に出る。
奥にいるテルマさんにも聞こえる声を出してから。



「いってきまーす!」












今日の買い出しはいつもより量が多い。
なんだろう、一応は平和?になったから客が増えるとテルマさんは見込んだのかな?

そんなことを考えつつ一通り買い出しは終えたので、重い荷物を両手に持って酒場に戻る。
路地から階段を降りる手前で酒場から出てきたと思われる人物とすれ違った。
なんだか(言っちゃ悪いが)小さかったし、髪の毛や服装に特徴あったからたぶんジョバンニさんだと思うんだよね。
家に帰るのかな?
あっ、ゲンゴロウちゃんにはいつか会ってみたいなぁ……

猫ちゃんのことを考え、若干浮上したテンションで石畳の階段を小気味よく降りていく。
荷物がいつもより重いせいか、やけに足音がした気がする。


テルマの酒場の入り口まで来て足が止まる。
いつもなら片手に荷物を持ちかえて扉を開けるのだけれど、今日の重さ的にそれは避けたい。腕がちぎれそうだ。(もちろん比喩だけれど)
なんかこう、実は私の隠れてたスーパー能力があって、今それが開花して勝手に扉が開いたりしないかな。開けゴマみたいな!
英語で言うとオープンセサミ!!



……色々妄想をしてみたけど、やっぱり妄想は不毛だった。

仕方ない、取り敢えず荷物を片手で踏張って持ってあけますか。

よっ、という軽い掛け声で片手に荷物をさらに乗せる。
で、その手の踏ん張りがなくなる前に扉を開けて……、って、そういえばこの扉って押すんだっけ?それとも引くんだっけ?
普段意識しないで行っていたせいか、考えると少しわからなくなってしまった。
腕が重さに耐えられなくなるのだけは避けたいので、とりあえず扉を押してみる。

…開かない。
ついでにガチャガチャとトアノブを回してみるがビクともしなかった。
ならばと今度は扉を引いてみるが、こちらも開かなかった。

え?えっ?何だこの現象?
押しても引いても扉が開かないとか。
はっ!?実はこれが私のスーパー能力だったとか!?
空間領域系か幻術系あたりだと分析する妄想をしながらも扉を開こうとする努力はやめない。

しかし、ちょっと腕が買い出しの荷物の重量に耐えられなくなって来たので一旦休憩。
両腕に荷物を半々の重さで持ち、一息をつく。

うーん、なんでこの扉は開かないんだろう?
現実的に考えて、裏で開かないように細工してる人がいるとか?
でもそんな人がいたらテルマさんが注意してくれると思うんだよね…。
まさか向こうにいる誰かがさっきの私の動きとシンクロしてて扉が開かないとか、そんな漫画みたいなことはないだろうし……。
謎は深まるばかりだ。

色々と考えていてもしょうがないので、もう一度再挑戦だ!
と意気込んでいたら勝手に扉が開いた。
そのことに驚きつつも反射的に足を一歩引く。



「おわっと、」



開かれた扉の先に見えたのは緑。次いでテルマの酒場店内。

向こうがドア押して出てきたために思ったよりも近くにいた緑の上空を辿れば、蛍光灯の光でちらちらと揺れる金髪に驚きに染まった青い瞳を持つ人物がいらっしゃった。

それを見た瞬間、私は色んな意味で硬直する。

ドサリ、と買ってきた荷物が地面に落ちる悲しい音だけが店内に響いた。







(まさかまさか勇者が私の動きとシンクロをしていただと…!?)





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