小説 | ナノ



「あっ、」



珍しく朝からさあさあと霧雨も降っている日のこと。
テルマさんの酒場に行こうと家を出たら左に特徴的な緑を見つけた。
その背中が城下町の中央に消えていくのを確認した私は、急ぎ足でその後を追う。

おそらく彼の行き先はラストダンジョンであるハイラル城。
勇者の物語も終盤に入ってきている。

予想通り緑はハイラル城入り口へ入っていった。
私は急いで城下町にあるゴロン族達が最近商売を始めた展望台に向かう。
彼等とは私が結界に包まれているハイラル城を見たいためによく通っていたので割と仲よしである。
それにテルマの酒場にも最近来るようになったみたいだしね。



「なまえお姉ちゃん、こんにちわだゴロ!」

「うん、こんにちは!ごめん、ちょっと上に行かせてね!」



一階にいるゴロンとの挨拶もそこそこに私は階段を駆け上がる。
途中にカンテラの油を売っている子供ゴロンもいたが急いでいたので無視してしまった。
まぁ、寝てたから大丈夫だよね…?

外に繋がる大きな扉を開けると優しめな雨が私の頬を打つ。
ハイラル城はまだ結界の中だった。
そういえばいつも弓を打っているゴロンの姿が今日は見えない。
きょろきょとと辺りを見渡すが、やはりいない。どうしたんだろう?
少し考えていたがわからないものはわからないんだと、ハイラル城を観察することに全力を傾けることにした。

さあさあと降る雨のせいで少し肌寒く感じる。
服も若干湿ってきたため、傘はやっぱり持ってくるべきだったかなぁと考えていた時、異変は起こった。

突如として現れた足が何本も伸びているような黒っぽいフォルムの大きな生き物が結界に飛び移った。
あれが影の結晶石の古の力で変化したミドナであると分かってても一言だけ言わせてくれ。



「帰ってきて、俺の天使!!!」



初プレイ時にもそうやって叫んだものだ。
だってあの美しいミドナがあんなにあるなんて…。ちゃんと帰ってくるんだけどね。

変化したミドナは何本もある腕?の1つを槍状にし、城を覆う結界に突き立てる。
すると結界が砕けた。
反動でミドナも吹っ飛ぶ。
確かこの後勇者にキャッチしてもらえるんだったよね。その羨ましい役を私と変わってくれないかな、勇者が。

そんなことを思いながら、結界崩壊の一部始終を見届けた私は次の行動を開始する。
この出来事を誰かがレジスタンズのメンバーに伝えなければ。
ハイラル城攻略中に彼等に助けてもらうシーンがあったはずだし!



「お邪魔しました!!」



カンカン、と階段を駆け下り、ゴロン達に別れの挨拶を告げて勢いよく外に飛び出す。
まったく降り止む気配のない霧雨はまだまだ降り続く。
傘を差している人もちらほらいるがいる中、その人達の間を私は南通りに駆けていく。





テルマの酒場に着くと中には珍しくレジスタンズのメンバーが全員といつも展望台の外で弓を売っているゴロン、それに奥に見慣れない客が1人…。
いいや、私は彼を知っている。基本的に黄金だったあの人だ。
勇者は魂を60個すべて集め終えることができたらしい。おめでとう!これでもうお金に困らないね!!



「おや?そんなに慌ててどうしたんだい?」



珍しく息が切れてる私を見てか、テルマさんが尋ねてきた。
カウンター席に座っていたゴロンもこちらを振り向く。
ジョバンニさんはおそらく泣いたままだ。



「っ、ハイラルの、お城の、結界が、壊れて、それで、」



走ってきた反動のせいか息が切れてしまい言葉も途切れ途切れになってしまった。



「なんだって!?」

「それは本当ですか、なまえ殿!?」

「お前はそれを見たのか!?」

「本当の話なら一大事だぞ!!」



しかしレジスタンズの気を引くにはその単語だけで十分だったようだ。
4人とも驚いた顔で椅子から立ち上がっている。



「私も、さっき、見たんですが、確かに、なくなってたと、思い、ます、」



アッシュさんが素早い動きで私の横を通り過ぎ外に出る。
私が息を何とか落ち着けている間、テルマさんとゴロン(いつの間にか馴染んでいる)はレジスタンズと何やら話していた。



「本当になくなっているぞ!」



その言葉を聞いたレジスタンズメンバーは何故か頷きあって店の奥に消えていき、ゴロンは少し急いだ様子で外へ出て行った。



「なまえ、ちょっいと店の看板を変えてきてくれないか?」

「えっと、休業中にいいんですか?」

「そうだね。頼んだよ。」



はい、と返事をして私は外に出て看板を取り変える。いつもの看板の裏にでかでかと休業中、の文字が。
これを目にするのはまだ2度目である。
頑張れば馬車イベントの時から勇者とお話しする機会はあったのにな、とちょっと過去のことを思って沈む。



「そうだ、それと私の馬を持ってきて欲しいんだ。」



酒場に戻ろうとすると扉からテルマさんが出てきて頼み事をされた。



「わかりました。1頭でいいんですか?」

「あぁ、ついでに装備も頼んどくよ。」

「了解です。」



なんだかテルマさんの雰囲気がとても慌ただしそうだった。
私も急がなくては、と思い馬を迎えに現在の家に戻るまでのスピードを早めた。







(どうやってハイラル城にレジスタンズの皆で侵入するのか楽しみだ)





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