小説 | ナノ



夜の城下町は薄暗い。
灯りも多少はあるが基本的にやはり暗い。
今までではあまり体験することができなかったその暗さに最初はちょっと戸惑ったのを覚えている。

この暗さに昼間のトワプリ城下町BGMは似合わない。
そう、こんな時は「傷ついたミドナ」くらいしっとりとした曲がよく似合う。(平原の夜のBGMがでも可)
だから酒場での仕事を上がらせてもらった帰り道はその鼻歌を歌いながら帰るのが日々の日課。
時折人とすれ違うが、大体の人は酒に酔っている様子だったり、ものすごく眠そうなので気にしないようにしている。

今日はちょこっと寄り道をして帰ろうかな。ジョバンニさん家の猫ちゃん達と戯れて癒されるか。
なんだか夜の雰囲気にもう少し浸っていたい、と気分的に思い立って急遽いつもの帰り道を逸れる。

南通りとの東通りを結ぶ路地に猫ちゃん達の集会所、すなわちジョバンニさん家の中庭がある。
勇者はもうゲンコロウちゃんを解放してあげることはできたのだろうか…?
ちなみにジョバンニさんはまだ酒場に来ていない=まだポウフィーを全て倒し終わってない、と予測する。
目的地に近づくにつれてにゃーにゃー、と猫たちの鳴き声が聞こえるので、驚かせないようにそっと様子をうかがう。

月明かりに照らされたそこはとても神秘的で。
その場所で猫たちに囲まれているミドナはなんだか神聖さが溢れ出ているように感じた。


……ん?
ミドナ、だと…!?


いくら目をこすってみても、頬をつねってみてもそこにいるのは間違いなくミドナ(本来の姿に戻ってない方)であって。

なん、だと…!?

自分の理解の範疇を越える出来事のおかげで私はその場でフリーズした。
だが、足下を通って広場に入っていく猫のおかげで現実に戻ることができた。

でもなんでミドナがここに?
勇者は酒場には来なかったしなぁ…。
なんだろう、この城下町で宿でも取っているのかな?

そう、この城下町にはなんと宿泊施設があったのだ!(最近知った)
ゲーム中にはなかったように記憶しているが、あるものはあるんだから仕方ないよね!

と、若干話の筋がずれてしまった。
今はどうしてここにミドナがいるのか、それを考えないと。
しかし、ミドナ姫はやっぱり美人ですなぁ…。
猫と一緒にいると絵になるといいますか、そこに存在してるだけで絵みたいだといいますか。



「…ふーん、そこにいるんだろう?」



!!!

その言葉に私の心臓はびっくり。
例えるならゼルダをゲームしてて思わぬ所からいきなり敵が出てくる感じだ。(しかも手強いヤツ)
いきなり中ボスの音楽がかかったりしたらびっくりするよね!アレにも似てるYO!!



「さっさとでてきたらどうだ?こそこそとするのはよくないと思うぞ。」



えっ、なにこれ。
まさかと思うが私に向かって言われているの?ねぇ、教えてよパトラッシュ。教えて、おじいさんー!

驚きのあまりフリーズ(頭は大混乱)していると、さっきまで猫を見ていたミドナの目線がこちらに向いてきた。


こ れ は 確 実 に ば れ て い る 。


オワタ、で脳内が占められ、とりあえずミドナの言葉に従っておずおずながら中庭に近づく。



「あ、あの、えっと、こ、今晩は!つ、月が綺麗ですね!!」



何言っちゃてるの、私ー!!
そしてどんだけどもっちゃってるの、私ぃぃぃ!!!

何か言わなければと思って発した言葉は後悔するくらいとても変だった。



「クククッ、確かにそうだな。」



そんな言葉だったのにも関わらず、(笑いながらではあったが)ミドナは返答をくれた。

ふおぉおぉぉううぅ!!!
今私ミドナ姫としゃべっちゃったよぉぉぉ!!!
なんかよくわらないけど感動したぁぁああぁ!!!

脳内で一人、ものすごくフィーバーする。



「…オマエ、私が怖くないのか?」

「え、どうしてですか?」



話の脈絡は全くつかめなかったが、気がついたら即答していた。
こんなに美しくて可愛いミドナを怖がるだなんて。あ、もしかしてアレですか?美しすぎて怖い、みたいなニュアンス?なるほどー!



「まぁいいや。それより何か食べられる物を持ってないか?」

「食べれるもの、ですか?」

「そこに寝てる勇者はエネルギーが足りないみたいなんでな、ククッ。」

「え、」



勇者、ですと…!?!?

ごくり、と生唾を飲んでからおそるおそるミドナの視線がある方に私も目線を向ける。
するとそこには暗いせいもあってか、庭の緑と同化しかけている勇者様が居ました。(かろうじて金髪でわかる)

そこに彼が居たという事実に驚きすぎた私はもの凄い勢いでバックステップをして後ずさる。
だってこんな所にいるなんて思っても見なかったし!心の準備がまったくできてないし!!
その結果、勢いがありすぎて上手く止まることができず、後ろなんて見ることできなかったしで、後方にあった壁に頭をぶつけた。地味に痛い。

ミドナは最初はポカン、としていたが少し経ってから笑い出していた。
彼女の笑いが見られたので、あの行動はあって良かった、ということにしておきましょう。

こんな騒ぎがあっても緑は微動だにしていなかった。
気持ち遠くから緑を観察する。
動くのは彼の金髪だけで、しかも時折吹く風に遊ばれている程度である。
彼が動かないのをいいことに(ずっと離れた場所にいるものミドナに悪いし)おずおずと勇者様に近づいていく。すると彼の眼は固く閉じられていたことがわかった。
そう、勇者様は寝ていたのである!そういえば最初にミドナがそんなことを言っていた様な気がします。

寝ててもなおかっこいいだなんてさすが勇者。
オーラがパンパないです。

あ、えっと、そう!
何か食べられるものを持ってないか、って話でしたっけ。
ゴソゴソ、と自分のポケットの中を探る。

見つかったのは…、一切れのチーズ(小さめ)とのジャーキー的なものが数本(こちらも短め)。
完っっっっ全におつまみです、ありがとうございました。
ほら、さっきまで酒場で働いていたから!!とか言い訳をしてみるけど、なんでもっと可愛い女の子らしいものが入ってないのかと自分に落胆した。



「フーン。一応持ってるみたいだな。」

「!」



ふよふよと浮いて近寄ってきたミドナにさっきまでポケットで眠っていたモノ達を見られてしまった。死にたい。



「やっ、でもこんなの食べ物に入りませんし…、」

「無いよりマシだろ。よっと、」



ミドナがおつまみを奪っていく。
彼女が両手におつまみを持ってる姿とか可愛すぎるんですけど。



「じゃなくて!!!今から何か持ってきますんで、そこから動かないでくださいね!!」



捨て台詞や死亡フラグ取れる言葉を残して私は一旦家に帰った。







(家にあったお中元的なハムを持っていくとミドナがジャーキーを食べてた。可愛い。勇者はまだ寝ていた。)




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