小説 | ナノ



最近、日々考えることがある。
もし勇者と出会うならどんなシチュエーションがいいか、についてだ。

この前の傘の件で、もういつか会うことは確定してしまったようなものだし、だったら素敵なシチュエーションがいいじゃないか!
事前に考えていたシチュならテンパって変な言葉を口に出すとこはしないだろうし。
要はイメージトレーニングってコトネ!


そこで考えたのは5つ。

1つめはベターな出会いとしてよく少女漫画とかで使われるアレ。
曲がり角でドン!、ってヤツ。
勇者が曲がり角に来るタイミングで何かで急いでいる私が走ってドン!、とぶつかるでしょ。
尻餅をついた場合は勇者が「ごめん、大丈夫?」とちょっと困った笑顔で手を差し伸べてきて。
私は「こっちこそすみません、ちょっと急いでいて…。本当にすみません」とかなんとかペコペコ謝りながら勇者の手を掴まずに立ち上がり路地に消えていくでしょ。
その時にハンカチとか何かを落としていって、その後テルマの酒場でばったり会った時にお互いに「あっ!」ってなり、勇者から「落としてたよ」とハンカチを手渡される、と。
なんて完璧な作戦なんだ!絶対に忘れがたい出会いになること間違いなし!!
しかし、実行する勇気が私にないため残念ながら却下。

2つめはこれまたベターな出会い。
勇者が城下町で買い物をするタイミングでこれまたお使いに来た私と同じリンゴを選んで手が触れ合って「あ、」というモノ。
そこで勇者は紳士的に遠慮するだろうけど、私は買ったリンゴを彼にあげちゃうという。
「私達の出会いの記念に。」とか微笑して言えたらかなり好感度は上がると思うんだ!
これが成功したらなんだか運命感じちゃうよね!?絶対に忘れがたい出会いになること間違いなし!!
しかし、これも実行する勇気が私にないため残念ながら却下。
まずお使いを頼まれるタイミングを勇者がいるときと合わせるのも難しそうだし、同じリンゴを選ぶってのも至難の業だ。
もし実際にこれが成功してしまった時、恥ずかしくて死にそうになる自分がありありと思い描ける。絶対にしゃべれないだろうし。

3つめは偶然落とし穴に落ちた勇者を、これまた偶然四つ葉のクローバーを探しに来た私が助けるという作戦。
決めセリフは「おっちょこちょいのクローバーさん、見っけ☆」である(もちろんポーズ付き)。
勇者は全身緑だしあながち間違ってない。そして絶対に忘れがたい出会いになること間違いなし!!
しかし、これも実行する勇気が私にないため残念ながら却下。
落とし穴を私が掘ったとしても仮にも勇者である彼が落ちる可能性は少ないし、まずどこに落とし穴作ればいいんだ、って話だよね。
しかもちょっと天然っぽさを出すための決めセリフとか本気で言える自信がない。
言えたとしても絶対に気味の悪いことになること間違いなし。

4つめは電波少女、もしくは天然少女を装うモノ。
相手に抱きつきながらの決めセリフは「ずっと会いたかった…!!」である。
で、あたふたした勇者は「どこかで会ったことあったっけ?」とか聞いてくるでしょ。
それに対しての受け答えはいくつか考えていて、「小さい頃に会ったの覚えてない?」と刷り込み幼馴染みパターンとか。
「忘れちゃったの?前世では一緒に7年の時を越えたり、繰り返す3日間を冒険したりしたじゃない!」という前世からの因縁があったように見せかけるパターンとか。(この場合最初のセリフは「初めましてかな、この世界では」にでも変更可能)
こんな意味深な事を言われちゃ、気になって仕方がないハズ!絶対に忘れがたい出会いになること間違いなし!!
しかし、やはりこれも実行する勇気が私にないため残念ながら却下。
パーフェクトな電波、もしくは天然少女に成りきる自信が私にはないしね。

最後の5つめはよくある逆ナン商法だ!
例えば天使の羽とか狼の毛とかを「これ、落としましたよ。」と決めポーズを付けながら勇者に話しかける作戦だ。
とりあえず何も落としていないのに、何故か落としたことになっている勇者は困惑すること間違いなし!
しかもそれが天使の羽とかのちょっとロマンチックなものというよくあるパターン攻撃!
こんなことをされちゃ、絶対に忘れがたい出会いになること間違いなし!!
しかし、これも実行する勇気が私にないため残念ながら却下。
まず話しかける勇気がないからな、それがあれば既に勇者と知り合いになっていただろうという予想まで立てられちゃうし。
根本からしてチキンな私には無理な作戦でした。


長々と述べてきた(中には突拍子もないものも含まれていた)が、これらは全て私の妄想の産物であって、とりあえず忘れがたい出会いを考えた結果なのある。
どれもこれも実行する勇気がないチキンな自分が恨めしいよ。

なので、チキンな自分にもできそうな出会いのシチュを日々模索中なのだ。

正直な話、今までのように影から見ているだけで満足だから頭の中で考えるだけで終わりそうなんだけども。



「あ」



ちょうどテルマの酒場に行こうと家を出た時、前方に緑を発見!!
その後ろ姿はリアルチンクル、ではなくスタアゲームの店主と少ししゃべって2人して派手めなテントの中に消えていった。
そしてテント前に基本いつでもたむろしている3人娘も消えていく。

となるとおそらく勇者はこれからスタアゲームの特設ステージ(まわりがほとんどトゲトゲのやつ)に挑戦するのだろう。
あの3人組が「あの緑の人のファンになっちゃった〜(はぁと)」の話をしていたのはすでに確認済みだ。

勇者のスタアゲーム…、みたい!!

意を決した私はこそこそとテントの中に入っていく。
観戦は自由にできたと思うんだよね。


薄暗いその中では、既に勇者が大きな鳥かごのようなステージで準備完了していて。



「じゃ、さっそくいくぜ!ヒァ・ヒィ・ゴーッ!!」



そのかけ声と同時に私の頭の中ではスタアゲームのBGMが鳴り響く。
勇者はクローショットを構え、そして飛んでいった…。

のではなく、天井に引っかかっているのだけれど。
ちなみにこのゲームのプチ情報として、この光は実は一直線に並んている部分もあって白→赤→黄→青→白…って順に取っていくとキレイに取っていけるというね。
私もこの法則には大変お世話になりましたよー。最大の矢立は絶対に欲しかったし。

今の勇者はその法則に気づいた様子はなく、適当に光を追っているようだ。
それでも間に合いそうな雰囲気なのだからすごいな。

しかし、タブルクローショットを使いこなす勇者はイケメンや…。
狙いを定めるあの真剣な横顔にほれぼれしてしまいます…。
3人娘の黄色い歓声に合わせて私も心の中で応援しておく。


あ、終わった。

無事に時間内にクリアできて勇者は満面の笑みを浮かべていた。
惚れてしまうやろー!!

心の中で悶えながら、私はこそこそとまた消えていく。
もともと入り口付近で隠れながらの観戦だったから外に出るまでに時間は掛からなかった。

やはり勇者はイケメンだった…、とぼーっとしながら再認識していると3人娘がキャーキャー言いながら外に出てきた。

この子達に群がられる勇者を見てみたい!
しかし、このままでは緑と鉢合わせをしてしまう!!
それだけでは避けなければならない!!!

私は急いでその辺にいた犬を抱き上げて近くの木の陰に逃げる。
体全体は隠れていないが、これで鉢合わせする確率は少なくなったはずだ。
ちなみに犬は成り行きで、である。ちょうどそこにいたから何かあったときに使えるかな、って思って…。

犬に構いながらちらっ、と横目でスタアゲームの出入り口を見ると、



「「「キャー!しゃべったー!!」」」



3人娘が黄色い歓声を上げてライフになるハートを出して逃亡する場面だった。

いつも気になってたんだけど、あのハートってやる気になれば出せるものなの?
リア充獣人夫妻もすごい出してたし、最終的にはハートの器とか出てきちゃったけど、要は気合いなの?
頑張れば私も出せるような、そんなゆるい感じなの?

うーん、やっぱり謎だ。


ちなみに勇者は状況把握がうまく出来なかったのか何秒かフリーズしていたが、とりあえずハートを回収して路地に消えていった。

方向からして、テルマの酒場にでも行くのかな?
あれ?でも天空都市が終わった後って影の世界だよね…?
何か情報とか必要だったけ?

私が首をかしげて考えると、腕の中の犬も同じように首をかしげていた。
可愛いなぁ。







(今回も勇者に会えなくて複雑な心境だ…)





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