小説 | ナノ



「いいかげん起きろ、バカ犬。」



いてっ。

誰かに思いっきり耳を引っ張られる感覚がして、俺は目を覚ました。



「やれやれ、やっと起きたか。」



視界にはリンゴをしゃくしゃくと食べているミドナの姿が。

…あれ?ここはどこだ?

起き上がると、一枚の大きめな布がぱさり、と地面に落ちた。

…??まったくわけがわからない。
周りを見渡すと何故か淡い緑の傘があったが、ここが城下町の南門の出口であるということだけは把握できた。
ついでに太陽はたいぶ高いところまで上がってきている。



「ククッ、何が何だかわからない、って顔をしてるな。」

「ワンッ!」

「焦るな、焦るな。ちゃんと教えてやるよ。だが、とりあえず今は城下で宿でも取って寝ろ。オマエ、もう何日も寝てないだろう。」



そういえば頭が少しくらくらするような…?

とりあえず人間に戻った俺はその場にあった傘とフルーツと湿っているタオルと大きめの布を持ってミドナの言葉通り城下町で宿を取った。











そこで丸一日以上たっぷりと寝た俺は、ミドナからため息をつかれながら事のあらましを聞いた。

天空に行くための大砲の修理に時間がかかるので、それまで黄金の虫探しと平原のモンスター退治、それにゴーストの魂集めをしていたということはわかっていた。
で、それらをするのに寝る暇を惜しんでしていたこと。言われてみれば、イリアの記憶が戻ってからまったく寝ていなかったかもしれない。
そのためか、城下町南門出口にいるゴーストを退治し終わったその後、倒れるようにして眠ってしまったらしい。
俺の記憶はそこから抜けているが、ぐったりしている俺が雨に濡れないようにと運んで少し看病してくれたのが、この淡い緑の傘の持ち主のようだ。
ミドナ曰く、黒い髪の少女らしい。



「ククッ、オマエを運んでいる時のソイツの顔がとっても見物だったぜ。」



思い出したようにそれだけを言い、ミドナは腹を抱えて笑う。

その言葉の意味がよくわからないが、とりあえずこの傘を返さなくては。
ちなみに傘と一緒に置いてあったリンゴ等のフルーツ類はありがたくもらうことにして、既に俺とミドナの腹の中に入っていた。



「んー…、まずはテルマの酒場にでも行ってみるかな。」

「ちょうど日も暮れてきたことだし、時間的にはいいんじゃないのか?」

「それもあるけど、この俺に掛かってた布から酒の匂いがしたような気がしてさ。」



狼の時に少しだけ感じたあの匂い。
フルーツの匂いも混じっていたが、様々な種類の酒やワインの匂いがした。
あれだけの量を扱っているのは酒場くらいだと思うんだよな。



「ふーん。ま、明日には大砲の修理も終わるだろうし、さっさと用事は済ませろよな。」







扉を開けると漂ってくるアルコールの匂い。
しかしそれはむせ返るほどひどくなく、少し匂う程度だ。
店内が多少混雑している。

ニャァ、とルイーズが俺に鳴いて挨拶をしてきた。



「こんばんは、ルイーズ。」

「おや?リンクじゃないか、イリアは元気にしてるかい?」



次にカウンターにいるテルマさんが俺に気づく。



「もちろん。相変わらずのおてんばですよ。」

「やぁ、リンク!来てたのかい!?」



今度はレジスタンズのメンバーが俺に気づく。
それに手を挙げて答えておく。



「ちょうどいい。リンク、これを向こうに持って行ってくれないかい?」



そう言って俺の目の前には黄金色と白濁色のそれぞれ2つのジョッキが。
向こうとはおそらくレジスタンズのメンバーがいる所だろう。
傘の持ち主について色々と聞く予定だったのだが、とりあえずこれらは持って行くか。

よっ、という軽いかけ声と共に合計4つのジョッキを持って奥へ歩いて行く。



「すまないな、リンク殿。」

「これくらい問題ないですよ。」

「ん?リンク、その傘は…、」



テーブルにジョッキを起きながらラフレルさんと喋っていたら、俺の持っている傘に気づいたアッシュが声を掛けてきた。



「城下町の南門の所に落ちてたんだ。此処に来れば誰の物かわかると思ってさ。」



事前に考えておいたことを言う。
実際は俺に被せるようにおいてあったのだが、こういった方が怪しまれないだろう、とミドナからアドバイスをもらっていた。
確かに嘘はついていない。



「それはなまえちゃんのじゃないかな?」

「たぶんそうだろうな。この前にその傘を差しているのを見かけたことがある。」

「確かまだ新しい、みたいなことを言っていなかったか?」

「そう言えばそうでしたな。」



レジスタンズのメンバーは全員が傘の持ち主と知り合いらしい。
これにはちょっと驚いた。



「みんなしてなまえの話かい?」



料理が盛られた皿を持ってテルマさんがやって来た。



「ちょうどいい所に。あの傘はなまえちゃんのものじゃなかったか?」



そういってモイさんが俺の腕にある傘を指さす。
数秒ほど淡い緑の傘を見つめたテルマさんはそうだと思うよ、と肯定した。
そして納得したように言葉を続けた。



「そういえばリンクはまだ彼女と会ったことがなかったねぇ。」



そのまま彼、彼女等は口々にこの傘の持ち主であるなまえ、という人について教えてくれた。

西通りに住んでいるエマおばさんの遠い親戚らしく、わりと最近こちらに引っ越してきたということ。
礼儀正しい子であるということ。
中でも驚いたのは彼女がこの酒場で働いて(手伝いをして)いるという事実だった。
自分でいうのもアレだが、結構な頻度で出入りしているのに今までまったく会えていなかったということにびっくりだ。…現在進行形で会えていないのだが。
毎日手伝いしてもらってるワケじゃないから少しばかり運がなかったね、と笑われてしまった。


狼の俺を介抱してくれてる時点でどんな人なのかは気になっていたが、色々な話を聞いてさらに興味が強まった。

…会ってみたい、なぁ。







(傘はとりあえずテルマさんに渡しておいた)





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