小説 | ナノ
お世話になっているおばあちゃんが城下町で流行っていた風邪を引いてしまった。
ここ数日はおばあちゃんの看病に着きっきりで、テルマの酒場には顔を出していない。(もちろん休みの許可はもらってある)
しかし、やっと容体も安定してきたし、おばあちゃんも大丈夫だよ、と言っているので、今日は久しぶりにテルマの酒場にやって来た。
ドアから様子をのぞき見ると、中にはテルマさんとレジスタンズのメンバーしかいなかった。
「どうも、お久しぶりです…、」
「なまえ!エマさんは大丈夫なのかい!?心配だったんだよ!!」
テルマさんが私の存在にいち早く気がついておばあちゃんの容態を聞いてきた。
ちなみに、エマというのはおばあちゃんの名前である。
私が名前で呼ぶのは他人行儀すぎて嫌だ、と言われてので私はおばあちゃんと呼んでいる。
性格はさっぱりした感じのおばあちゃんなのだ。だからきっと色々な人と顔見知りなんだと思う。
「はい、おかげさまで。もう充分良くなってきてますよ。」
「そうかい、そりゃあ良かったよ!」
ほっ、とした表情をするテルマさん。
そのやりとりを聞いていたレジスタンズの皆も同じような顔をしていた。
「お見舞いの品、わざわざありがとうございました。」
「いいんだよ、あれくらい。」
「いえいえ!とても助かりました!!」
「そうかい、そうかい。」
テルマさんは笑っているが、あれくらいって量じゃなかったんだな、これが…。
色々なフルーツを持ってきてくれたのはとても嬉しかったんだけど、その量がハンパなかった。
未だに半分以上残ってるしね。(それらは食べられなくなる前にジャムにする予定)
「あっ、そうだ。なまえにはまだ言ってなかったね。イリアの記憶が戻ったらしいんだよ!」
「本当ですか!?それは良かったです!!」
イリアとは正直あまり親密なつきあいはしていないが、彼女は記憶を失っていてもとても可憐で守りたくなるような女の子だった。
そんな可愛らしい子の安否を喜んで何が悪い!!ゲームでは空気、とか思っててごめんね。
となると、勇者は忘れられた里のあのイベントを終わらせたワケか。
あれはすごい楽しかったなぁ…。
「その話といえば!!」
やたらと興奮気味のシャッドさんが勢いよく立ち上がった。
なんだろう?
「カカリコ村の教会の地下で天空人のものと思われる大砲が見つかったんだ!!」
「えっ、そうなんですか!?」
つまり今勇者は順調にイベントを達成して天空都市なのか…?
レジスタンズのメンバーは既にこの話を聞き飽きているのか、またか、という顔をしていた。
「リンクのおかげで天空人の古文書も見つかってさ!これはすごい進歩だよね!!」
「そうですね。」
「で、僕なりに色々と天空人の伝説について考え直したんだけど、」
「おい、シャッド。その話は長いんだから止めておけ。」
モイさんがストップをかける。
「えっ、そんなに長いかな?」
「あぁ。」
「じゃぁ、どうしようか悩みますね。」
私が今日、酒場に来たのはお手伝いをするためであって。
断じてシャッドさんの長い天空人の伝説について聞きに来たのではない。(ちょっと興味あるけど)
ちらり、とテルマさんを見ると目があった。
「話は聞こえてたよ。今はそんなに手伝ってもらうようなこともないし、大丈夫さ。」
「…なんか、すみません。」
目配せだけで私の気持ちを察してくれたのか、ちょっと申し訳ない…。
だがこれで、時間は大丈夫なようだ。
有り難いそのお言葉に甘えて、私は椅子を1つ拝借し、長々とシャッドさんの話を聞くのだった。
彼の話でその大砲が見つかってからまだ一週間は過ぎていない、ということを聞き出せた。
つまり、勇者はまだ天空都市には行っていないのだろう。(予想が外れた)
確か、大砲を直すのに結構時間がかかった気がするんだよね…。あとルピーもね。
天空人の伝説についての見解は私が古代文明のプロってわけじゃないから、関心するくらいしかできなかったけど。
やたらシャッドさんの目がキラキラしてるなぁ、というのが率直な感想だ。
(勇者ってやっぱりすごい)
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