放課後になり、徐々に校舎内に残る生徒が減っていく。僕は教室で帰り支度をしながら自分の身に起きたことについて考えていた。

事件が起きたのは昨日、七不思議の集会の最後に急遽行われたトイレツアーの最中だった。校舎内にあるトイレを巡り怪奇現象が起きるか否か調べていたのだが、一階南側のトイレのある個室に入った僕は急に眠気に襲われそのまま眠ってしまった。
そして、目が覚めたら僕は女の子になっていた。
正確に言うと違う世界で女の子として生きていた僕と中身が入れ替わってしまったようだ。
今日一日過ごしてみてわかったことは、僕の性別以外は元の世界と同じということだけだった。
元に戻る方法がわかるまでは女の子として生きるしかないだろう。


はぁ、と小さく溜め息をつく。
ふと教室を見渡すと僕以外誰も残っていなかった。窓から見えた空はほんのりとオレンジ色に染まり始めている。気付かない内に長い時間考え込んでいたのだろうか。もう帰らないと。
その時、聞き覚えのある声が僕を呼んだ。

「やぁ、修子ちゃん。」
「あ…風間さん。」
ドアの方を見ると風間さんが立っていた。彼は僕の方に歩み寄り、僕が座る前の席に腰掛けた。
何故風間さんがここにいるのだろう、三年生が一年生の教室にくることなんてほとんどないのに。
「何か用でもあるんですか?」
「決まってるじゃないか、修子ちゃんに会いに来たんだよ。」
風間さんが僕に向けてウインクをする。
そうだ、福沢さんや岩下さんだけでなく僕も言い寄られていたんだっけ。
面倒だなぁと思う僕を尻目に風間さんは話を続ける。
「七不思議の集会で会ってからずっと修子ちゃんのことが気になってね。一緒に帰りたくて昇降口でずっと待ってたんだ。」

風間さんはサラリと衝撃的なことを言ってのけた。
約束も何もしていないのに待っていたなんて、もし僕が断ったらどうする気だったんだろう。
「それ、本当ですか?」
「あぁ、本当だとも。でもいつまで経っても来なかったからキミの教室まで来たんだよ。…今思ったけど最初から教室に行けばよかったんだよね、とんだ盲点だ。あっはっは。」
風間さんが手をひらひらさせながら笑う。
「…気付くの遅すぎですよ…。」
僕は力無くツッコミを入れると溜め息混じりに大きく息を吐き帰り支度をしたままの鞄を持った。

「…丁度帰ろうかなって思ってたとこでした。せっかくですから、一緒に帰りましょうか。」
風間さんが勝手に待っていたとはいえ僕のために時間をさいたことに変わりはない。あまり気乗りはしないが一緒に帰ってあげよう。
僕の方から言ってきたのが意外だったのか、風間さんは一瞬きょとんとしたがすぐに満足そうな笑みを浮かべ席を立った。
僕たちは教室の窓の戸締まりを確認してから、肩を並べて夕日に照らされる校舎を後にした。




「…あ、そうだ。ボクを待たせたお詫びは駅前のケーキ屋のシュークリームでいいからね。」
(…女の子にもそういうこと言うんだこの人…。)



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