五万打企画 | ナノ
気休め程度ですが





ああ、空はこんなに青いのに。あたしの心はこんなにもどんよりと曇ってるよ!なにかの詩みたいなクッサイ台詞が頭の中に浮かんでくる。
昨日、ずっと片想いをしていた相手(サッカー部キャプテン)に告白をした。結果は「ごめん、好きな人がいるから」でした。うん、ほんまにねえ、実を言うとねいけると思ったんや。すっごい仲良かったし。けどあたしの渾身のシュートは見事に彼のゴールから外れてしまったわけや。ていうか、ゴールにかすりもしなかったんや。


「まったく、涙も出えへんわ」

「何がや?」

「‥あれ、おかしいな確か今は授業中じゃ」

「何言うてんねん、お互い様やろ」


ですよねー、と言うと一氏はあたしの言葉を無視して隣に座った。屋上はサボるには絶好の場所なんやな。そのまま二人して空を見上げてたら、なんかの鳥が横切った。ええなあ、あたしも空をぴゅーっと飛びたいわ。隣にいる一氏を見ると大きな欠伸をひとつしていた。


「ちゅーか、一氏って普段バンダナしとったから気付かんかったけど‥」

「なんや?美形やって?」

「相当目つき悪いんやな!」


そういうと一氏はものっすごい形相で睨んできた。より一層目つきが悪くなった気がする。あたしがいつまでも笑っていると、イラっときたのか、一氏があたしの太ももあたりに軽く蹴りをかましてきた。スカートに一氏の靴の跡がくっきりついた。女が相手でも容赦しないよなあ、コイツ。その足跡を手で払っていると、一氏が急に質問してきた。


「で、なんでこんなとこでサボっとるんや?」

「なんでやと思う?」

「‥さあ」

「なんか気乗りせえへんかってん」


ふうん、と納得したのかしていないのか、一氏はしばらく黙った。その沈黙が気まずくもあるし逆に救われるようでもあって、なんか不思議。ぼんやり空を眺めながら、あたしは無意識にぽつりと呟いていた。


「昨日の今日じゃ、やってられへん」

「そらそーやろな」

「ええ?」

「‥フラれたんやろ?サッカー部のキャプテンに」

「一氏‥‥見てたん?」

「昨日、偶然」

「そっかー」

「なんや‥怒らへんのか」

「んー‥まあ別になあ、なんかな、怒る気すら起こらん」

「今のシャレか?」

「一氏君‥怒るで?」


一氏との会話は、少し体が軽くなるような気がした。不思議やな、こんなに目つきの悪い相手なのになあ。


「‥‥まあ、お前若干やけど良い奴やし、ちゃんとお前に合う奴が見つかるて」

「なんやねん、若干て」

「ほんっとーに見えんくらいほんのちょっとだけやけどな、名字はええ奴や」

「‥うっさいわ」


ふ、とどちらが先ともなく笑った。一氏も良い奴だよ、ほんの少しだけど。
大人になってから今日のことを振りかえったら、どうしてこんな些末なことでなんで悩んでたんだって思うんだろうな。けどこれが今のあたしの全てだし、無駄なことではないと思う。全身全霊をかけて恋をしてたことには、きっと後悔なんかしないだろう。
とりあえず今は、いつもよりちょっとだけ優しい、この良い奴の隣りで、少しだけ泣いてみることにした。