素敵なもの | ナノ
変わらないものと、






まだまだ暖かいと思ってた季節も気付けば少し汗ばむくらいになっていて、廊下に出ればひんやりとした空気が流れていて快適や。窓を開けると風が吹き込んできて涼しい。

ふと廊下の向こうに視線を送ると、やたら背の高いモジャモジャと目が合った。あら珍しいなんて思ってるとニコニコしながら駆け寄って来た。



「名前ー!」

『おはよ千歳。どないしたん?』

「ん?名前の見えたけん走って来たとよ」

『はは。いやそうやなくて、珍しいやん千歳が校舎内におるなんて』



そう言って平静を装ってみたけど、今きっと私めっちゃきもい顔してんねやろな。アカン、にやける…!まったくしれっと爆弾投下すんじゃないよこの子は!



「今日はなんとなく」

『相変わらずマイペースやなぁ』

「あ、謙也がおる」

『え、どこ?』



ほらあそこ、と千歳が指差した先には校舎の影でクラスメートとボールを蹴って遊んでる謙也が見えた。


『3年になったってのに謙也は何も変わらんなぁ』



そう言いながら横目で千歳を見上げると、髪が風になびいていてドキッと胸が高鳴った。その時千歳が急に目だけでこっちを向いてパチリと目が合い、勝手に口元がへらりと緩んだ。千歳もフ、と柔らかく微笑み更に胸が鼓動が速まった。



『で、でも時が過ぎるのって早いよなぁ』

「うん。もう俺らも三年になりよったもんなぁ」

『謙也のことばっか言ってられへんわ。三年になったって、私もなーんも変わらへんもん』

「そうたいねー」



千歳はそう言いながら私の頭にポン、と頭を置いた。



「名前ん背も全然伸びなかね」

『千歳がでかすぎなんや!』

「でもほんと、時の経つんは早か」



千歳は私の頭に手を置いたままそう言った。頭に全神経を集中させながら、私も考えていた。もう千歳を好きになってどれくらい経つやろ。一緒に部活もやってきたしそれなりに仲はええと思う。でも千歳はこういう奴やから何を考えてるのかわからへん。こうして頭を撫でたりすることも、私にとっては心臓が破裂するんやないかってくらいの出来事やけど千歳にとっては犬を撫でるくらいの感覚なんかもしれへん。アカンなぁ、こんなにずっと一緒におるのに一歩が踏み出せへん。時だけが過ぎたって結局私はなんも変われんままや。



「あ、今日で一年だ」

『ん…何が?』



相変わらず千歳は私の頭に手を置いたままそう呟いた。



「名前んこつ好きんなって」

『うん………はあ??!!』



千歳の口から零れた言葉に、私は思わず目を見開いた。



『いっ、今なんて…』

「ん?好いとお、名前んこつ」

『嘘…』

「やーっと言えたばい。緊張したー」



そう言って照れ臭そうに笑った千歳の頬は若干赤く染まっていた。私は未だ信じられない思いで、耳の奥で響く激しい鼓動を感じていた。



「で、名前ん返事は?」



微笑みながら首を傾げた千歳。ずるいなぁもう。私から言いたかったのに。



『私も…好きやで。たぶん、千歳と同じくらい前から』

「本当ね?」

『うん』

頷いて笑って見せると、千歳は両手でぐしゃぐしゃと髪を撫でてきた。



『ちょっ…ボサボサになるやん!』

「あはは」

『あはは、やない!』

「本当可愛かね、名前は」



窓から吹き込んできた風が妙に冷たくて気持ち良くて、いつの間にか頬が熱を持っていることに気付いた。千歳が「はは、真っ赤ばい」って笑いながら私の両頬を包み込んで、更に熱くなった。



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アル様より頂きました。
7万打記念にフリリク企画‥鼻息荒くしながらリクエストさせていただきました‥!千歳かわっ‥!そしてヒロインちゃんか、かわいすぎる‥!しかも我がサイトが1周年を迎えたと言う事で「一年」を絡ませて下さったそうです。そんな製作秘話まであったとは‥アルさん、ありがとうございました〜!