庭球 | ナノ



マネージャーの仕事は大変だけど、楽しい。イケメン揃いのテニス部なだけあってたまに、極々たまーに一部の女子からの嫌がらせなんかもあるけど、それでもテニス部のみんなは良い人ばっかで、毎日充実してる。


「うぃーす」

「あ、ひかる〜」

「あー、先輩うざいっスわ」


部室で白石と談笑していたところに、ちょうど光が入ってきた。彼を可愛がることが最近のあたしのお気に入りである。待ってましたとばかりに彼の頭を撫で回すあたしに対して、光は心底うざそうな顔をしている。


「今日もスカした感じが可愛いね〜」

「始まったで、名前の財前遊び」

「このまさに中二病なとこがいいのよね」

「先輩、俺着替えたいんすけど」

「あたしのことは気にせんとええよ」

「部長、この虫駆除してくれませんか」


はいはい、と白石に両腕を掴まれ光から引きはがされた。先輩にむかって虫とはなんだ、と思いながらもいそいそと着替え始める光の姿を凝視する。それに気付いた白石が腕をつかんでいた手で今度はあたしの目を隠した。


「あー、白石何すんねん!」

「名前がいかがわしい目しとったからな」

「後輩の成長っぷりを見てただけや」

「ほんならテニスのプレー観察したらええやろ」

「ウェアに隠れた部分も見とかな」

「ほー、なら俺の隠された肉体美も見せたろか」

「きもいきもいきもいきもい」

「連呼すな」


先輩ら、きもいっス。普段は小春とユウジに向けて言う言葉が、今日は白石とあたしに向けられた。相変わらず視界は真っ暗なままなんだけど、ジャージのチャックを閉める音が聞こえたから着替えが終わったのだろう。白石の手をぺちんぺちん、と叩いて視界を遮っている手をどけてもらった。目隠しされてたため、視界が若干ぼやけている。

ほな、先行くで。白石がラケットを持って部室を出た。光はイスに座ってシューズの紐を結びなおしている。実は光と二人きりになるのは初めてで、何を話そうかと迷う。うーん、と話題を探していると、そのうち光が口を開いた。


「名前先輩」

「え、あ、はい」

「‥なに緊張してんすか」

「緊張なんかしてへんで」

「そーすか」

「うん」

「‥」


なんで黙るん!あたしはこの状況にいてもたってもいられなくなったため、言葉を粗探しした。それで出てきた言葉はいつも言い慣れてる言葉でしかなかった。


「か、かわええね、光は」

「またそれっすか」


絞り出した言葉がそれかよ、多分光もそう思っただろうに。光は呆れながらも笑ってくれた。優しい子だ。


「まあ‥」

「ん?」

「先輩の方が可愛いっすけど」


なんということだ。不意をつかれた。普段自分が言い慣れている言葉を唐突に、しかもさらりと言われた。白石ならまだしもあの財前光が。びっくりだ、驚きだ。混乱してるあたしを尻目に、光は追い討ちをかけてきた。


「先輩、顔真っ赤ですわ」

「う、うるさい!」


もの凄い速さで部室を飛び出した。スピードスターも顔負けの速さだったと思う。よくわからないままに部室を出たので、右手には何故か部室に干してあった雑巾が握られていた。


「先輩、それタオルじゃないっすよ」

「ううう、うるさい!」



ロマンチックも大概に
(はい、タオル)



title*sappy