卯月の思い出
――君がいなくなってから、もうけっこう経ったんだな。
引き出しに入れてあった家族写真が目に入る。息子が五歳になったとき、妻がどうしてもと言って家族で撮った写真だ。それから二年後に彼女が亡くなるとは、思いもよらなくて。
「どうしたんですか」
ふと聞こえてきた同僚の声にはっとして、大月は何でもないと答える。そうだ、今は仕事の時間だ。
引き出しから必要なものを取り出して、大月は仕事を進めていった。
休憩時間、久しぶりに引き出しから家族写真を取り出す。妻が亡くなった直後は、見るだけでも辛かった。
コーヒーを飲みながらあのときのことを思い返し、大月は小さく笑う。
あのころの自分は女々しかったなあ。写真に向かって小さく言うと、変わらない笑みで見つめてくる妻が何かを言ってくるような気がする。
写真から目を離し、今度はまだ日が高い空を見た。学校へ行っているであろう息子は今何をしているかを考えながら、大月は残りの仕事を頑張ろうと気合を入れる。
もう君が心配しなくても、大丈夫だよ。
心の中で呟いた言葉は、誰にも届かない。しかし、写真の中の彼女の笑みがこくなったような気がして、大月はやわらかくほほ笑んだ。
卯月のころ、君と出会ってそして別れ。今また卯月が始まろうとしていた。