生きる覚悟を決めよう

 傍にいる少年が、泣き止まない。この数日間ずっとだ。
 当たり前だ。目の前で、実の父が死んだのだから。本来なら葬式などそういったことをやるはずだが、今はできない。そう、荒神雷蔵が天照を掌握してから。
「おい、いつまで泣いているんだい」
 卯月は、なかなか泣き止まない少年、葉月に声をかける。そっとしておきたいのはやまやまだが、今はそうも言ってられない。ここも、いつ荒神の勢力に押し入られるのかわからないのだ。
「少年、ここも危ない。とりあえずずらかろう」
 そういって、無理やり葉月を引っ張って行った。

 数日前、卯月は酷い傷を負った兄、大月を見つける。久々に会った兄は酷く衰弱しており、怪我は何日もほうっておいてたためか酷い有様だった。傍には、彼の息子の葉月という少年。怯えた顔をしており、今にも泣きそうだった。
 素人目にもわかる。兄はもう助からない。卯月は理解した。そして、兄がなぜ自分を探していたのかがわかる。
「卯月、頼れるのはお前だけだ。お願いだ、息子を頼む」
 息も絶え絶えに、大月は言う。俺はもうだめだ。そう言った大月の顔は、しかしひどく穏やかだった。
 傍にいる葉月は、小さな声でおとうさんと呼ぶ。大月は、そんな葉月に対し大丈夫だと返す。もう、お前は大丈夫だと。
 そのとき、大月の体に何かが当たる。同時に、銃声が聞こえた。音がしたほうを見たが、ものが多くて人の姿が見えない。
 お父さん、という葉月の悲痛な声が聞こえる。何度も、何度も。
 そして、再び銃声が聞こえる。今度の弾は、なんとか三人から逸れたがあたるのも時間の問題だろう。
 しかし、卯月もただ黙って見ているだけの女ではない。着物に隠していた銃を取り出すと、威嚇として銃声が聞こえた方向へ銃を撃ち放った。
「逃げるよ、少年!」
 先ほどあたった弾のせいで息絶えたのだろう、葉月が何度も揺さぶっても大月は起きない。とりあえずここは危険だと判断した卯月は、無理やりにでも葉月の手を引っ張って自身の隠れ家の一つへと行くことにした。

 あれから何日が経ったのかわからない。もしかしたら、たった数時間かもしれない。卯月は疲れたとは思ったが、葉月を見捨てたいとは、自分一人だけで逃げようとは思わない。兄からの頼みだから、というだけではない。葉月は、卯月にとって唯一残された『血縁』なのだ。
「お父さん、僕は強くなりたいよ……」
 小さく聞こえた葉月の言葉は、強くなりたいという願いの言葉。恐らく、葉月もこのままではいけないと思っている。しかし、度重なる変化についていけないのだ。
 ならば、卯月がやれることは。
 卯月は立ち止まると、葉月と向き合う。そして、ゆっくり言った。
「少年、強くなりたいのならアタシが手を貸そう。ただ、それには相応の覚悟が必要だ。少年に、その覚悟はあるか」
 泣きはらした目で卯月を見る葉月は、驚いた顔で卯月を見る。しかし、言葉を理解すると強い意思で、しっかりと頷く。
 その言葉に、卯月はにやりと笑う。楽しくなりそうだ。
「よしいいだろう。少年、ここでは強くならなくてはいけない。アタシは生き方を教えることはできる。ただ、あとは少年次第だ」
 とりあえず、これを持て。そう言って、卯月は隠していた銃を葉月に渡す。葉月は少し小さく悲鳴を上げたが、覚悟を決めたのだろう、銃を手に取った。

 さあ、楽しい宴の始まりだ。卯月は、大きな敵と戦うことを楽しみとしていた。

反荒神勢力:十六夜卯月、十六夜大月
死亡:十六夜大月

 

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