ある日の一節
昼休み、瑠璃は毎日図書室へと足を運ぶ。本を読むことが好きな彼女にとって、図書室はまさに宝の山。たくさんの本を抱えながら、瑠璃ははやる気持ちを抑えて歩くのだった。
図書室に入ると、すでに何人かの生徒が本を読んでいるのが目に入る。しんと静まり返った室内では、廊下の喧騒と本をめくる音、瑠璃の動く音がよく聞こえた気がした。
持っていた本を一度机の上に置くと、瑠璃はすぐさま今日借りたい本を探しに行く。何を読んでいなかったかな、と考えながら、瑠璃は広い図書室で本を探していた。
しばらくして、瑠璃は五冊の本を選ぶ。そして先程机の上に置いた本と一緒に、受付へと向かう。体力の少ない彼女にとってたくさんの本を運ぶのは少々骨が折れるが、それでも今日の楽しみのために必死に歩いた。
やっとの思いで、受付に本を置く。そして、返却する本と借りる本を分けて、近くにいた図書委員に頼んだ。
腕章の図書委員という文字と、長い髪が印象的な少女。瑠璃が図書室へ来るときは、よく見かける気がする。確か歳は自分よりも上だったか……。瑠璃が思考の海へとのまれようとしたときだった。
いつもありがとうございます、というやわらかい声が聞こえる。耳に心地よく響き、すんなり頭へ入ってくるような声。思わず聞き惚れそうになりながら、瑠璃は小さくはい、と答えるのが精一杯だった。
「読むのがはやいんだね」
小さく呟かれた声は独り言か。自分に言われたのかと思い、瑠璃は一瞬何か言うべきかと考える。しかし結局何も言わず、彼女が行う作業をただ見ているだけだった。
返却日についてですが、という声が聞こえ、瑠璃は黙ったままでいた。一瞬彼女を見たとき、優しげな笑みがこちらに向けられている。他意はないはずなのに、変にどぎまぎして瑠璃は目を逸らした。
図書室を出ると、持っている本の重さが増した気がする。しかし、瑠璃は今日の楽しみのためにと、楽しげに教室へ戻るのだった。