風は何を運ぶのか

 昔の話だ。
 津田沼比呂志という少年がいた。彼は、友達がいなかった。そのため、彼は嘘を吐いて気をひこうとした。しかし、嘘を吐けば吐くほど人は離れていき、更に彼は嘘を吐くという悪循環に陥った。
 そしていつしか、彼は自分の世界に閉じこもるようになった。
 そんな彼を案じた母親は、ある日自身の故郷である大阪帝国へ彼を連れて行った。新しい環境なら、何か変わるかもしれないと願って。
 そこでも彼は変わらなかった。いつも通り、嘘を吐いて一人になっていた。結局変わらないのかと、母が思ったとき。彼は、一人の少女と出会った。
 彼女は、赤い髪をしていた。それは、美しい色だった。しかし、彼は始めその赤を恐れた。彼にとって、赤は変化の色だった。変化は、恐怖の象徴だった。
 色々な言い訳を並べ立て、その変化を必死に追い払おうとした。しかし、彼女はそんな彼を気にせず外へ連れ出した。
 『外』の世界は、怖かった。しかし、それ以上に楽しいことを彼女から教わった。彼女の言うことはわからないことが多かったが、それでも彼女の傍にいることはこれまでの彼の人生で一番楽しい出来事だった。
 楽しい出来事はあっという間に過ぎ去った。このまま続くのではないかと思われたとき、彼は父に家に連れ戻された。なぜかと父に何度もきいた。しかし、父は何も答えなかった。彼は、再び塞ぐようになった。

 ある日、母が久方振りに大阪へ行くと言った。彼は、それについていくことにした。久しぶりに彼女に会えるということが嬉しかった。
 しかし、母が大阪へ行くという日、彼は熱を出した。久しぶりに彼女に会いたいからと必死に頼み込んだが、酷くなってはいけないからと聞いてくれなかった。仕方なく、、彼は家に残ることになった。
 ぼんやりと寝ていた時。使用人が、あわてた様子で彼の部屋に入ってきた。
 そこで、彼は母の死を聞いた。事故だとも、自殺だとも、殺人だとも聞かされた。しかし、彼には何も聞こえなかった。母の死が、ただ信じられなかった。
 『呪われた』別荘に行ったから死んだのだ、いや、彼女が死んでから『呪われた』別荘と呼ばれるようになったのか、それは定かではない。ただわかったのは、母が死んだのは大阪にある別荘だということだった。
 その後、何があったのか彼は覚えていない。気づいたら、母の葬儀が終わっていた。そのときに何か騒ぎがあったらしいが、彼は覚えていない。
 彼女に会いたいと思ったが、彼は唯一の会う手段を失ってしまった。父に頼もうと思ったが、今までの父の態度を考えると難しかった。
 そこで、彼は彼女の名前しか知らないことに気づく。住んでる場所は、大阪ということだけ。詳しいことなど、何も知らなかった。
 大人になれば会えるだろうか。なら、はやく大人にならなければ。何度、願ったことだろう。はやく大人になりたくて、彼はやれることを頑張った。出来ないことが多かったが、それでも一生懸命だった。周りは、要領が悪い彼にあまりいい顔をしなかったが。
 いつしか時は流れ、なぜこんなことをしているのかわからなくなり、彼は頑張ることをやめてしまった。ただ、心には空虚だけが残った。
 ある日、ふとした瞬間彼は母が死んだと言われる別荘へ行こうと思った。なぜだかはわからないが。
 今は、昔とは違い自由にどこまでも行ける。それを知り、彼は父に内緒で大学を休み愛車を走らせて母が死んだ別荘がある大阪へと向かった。
 それは、つい最近の出来事。再会の前話だ。

 

   

 


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