水は掴めど流れてく
懐かしい夢を見た。母が、まだ生きていたとき。よく、母の知り合いの家に行った。そこには彼女がいた。
彼女は優しかった。特にこれといった秀でているものはなく、友さえいなかった自分にも優しく接してくれた。いつからか、彼女と会うことはなくなったのだけれど。
楽しい、夢だった。人と一緒にいることがこんなに楽しかったのかと思うほどに。一人でいることが多かった自分には、嬉しかった。
母が死んだときのことを思い出す。確か、あのときは熱があったような気がする。朧げな記憶だ。
世話人が、慌てた様子で部屋に入ってきたことは思い出す。そのときに、母が死んだということを教えてもらった。ただ、それ以上のことは思い出せない。
気づいたら、母の葬儀が終わっていた。もう母には会えないのかと父に何度も問うた気がする。なぜか、母が死んで暫くのことは思い出せない。
そのときに、彼女に会ったのだろうか。そこで何かあったような気がして、思い出せない。思い出せない記憶に、なにか重要なことがあったような気がする。
暫く思い出そうともがいていたが、何も思い出せない。諦めて、再び寝ようと目を閉じる。脳内に彼女の姿がちらついたが、すぐに眠りについた。
夢は、また懐かしいものを見せていた。