諦められるならとっくにしてる
今日こそはと、咲都季はコンビニ前で気合を入れる。もし言えなかったときのためにと用意した手紙も、持ってきた。
このままでは駄目だと頬を叩く。すると、緊張していた頭が冷静になっていくようだった。
意を決して中に入る。すると、優しいいらっしゃいませという声が聞こえた。この店の店長、匙谷誉。咲都季が、長年片想いしていた人物だ。
中を見ると、人が少ない。それは咲都季にとって好都合で、勇気が出てくる。人がいないことを確認すると、咲都季は店長に声をかけた。
「あの、今お暇ですか?」
彼にとっては勤務中であるため迷惑だろう。しかし、店長は大丈夫ですよと答える。それに咲都季は安堵し、一つため息をつく。そして大丈夫と自分に言い聞かせ、大事な話しがあるんです、と彼に言った。
一瞬きょとんとした彼は、咲都季の様子に気づいたのだろう、今ならいいですよと返してくれる。嬉しい言葉ではあるが、これから言おうとしていることを考えて、咲都季はさらに緊張する。しばらくは口籠り、言いたい言葉が出てこなかった。
やはり出直そうかと考えるが、せっかく今日のために手伝ってくれた姉と妹に申し訳ない。今しかないと、咲都季は必死に自分に言い聞かせて声に出した。
「あなたが、好きです」
瞬間、顔が赤くなるのを感じる。ついに言ってしまったと実感して、咲都季はこのあとどうすればいいのかと思考を働かせた。
店長は、驚いているのか何も言わない。まさかいきなり告白されるとは思わなかったのだろう。少し考えが至らなかったかと考えていると、店長は口を動かした。
「俺で、いいんですか?」
その言葉で、咲都季は俯けていた顔を上げて店長を見る。期待の眼差しで彼を見るが、先に続いた言葉は想像とは違ったものだった。
「君なら、俺よりいい人がいると思うんです」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。理解できなかった。それが拒絶だとわかると、ふいに涙が溢れ出てきた。
「何を、言ってるんですか……」
絞り出すように声を出す。震えているのが、自分でもわかった。
何か言おうとしている店長を、咲都季は遮る。これ以上、彼の口から何も聞きたくなかった。
「どうしてそんなことを言うんですか。あたしは、あなただからいいんです、あなただから好きになったんです、他の誰でもない、あなたが! あなたは忘れていたとしても、あたしはあなたに励まされてここまでこれたんです。だから、もっと自分に自信を持ってくださいよ……!」
止まることを知らず、咲都季は一気に言う。そして言いたいことを言い終えると、泣きながらだから、と言う。
「あたしの幸せを断る理由とするのなら、あたしは絶対に諦めません。匙谷さん」
だから、覚悟してください。挑発的に笑いながら、咲都季は言った。
それでは、時間をとらせてごめんなさい。ぺこりとお辞儀をして、咲都季は店を出る。振られはしたが、可能性がないわけではない。
これからどうしようかと考えながら、咲都季は家に帰った。