今日も頑張ってますか

 西京駅から徒歩三分にあるコンビニ、ヘブンイレブン。昼夜問わず賑わっているこのコンビニに、菜津実と咲都季は来ていた。
 なぜこのヘブンイレブンに来ているかというと、理由は一つ。咲都季が、ここの店長に恋をしたからだ。そのため、咲都季は暇さえあればここに寄っている。
 別に菜津実はついていく義理などないのだが、ただなんとなく面白そうだからとついていく。そして、このヘブンイレブンにはもう一つ面白いことがあった。
 中に入ると、いらっしゃいませという声が聞こえる。今はお昼を少し過ぎたところのためか、客は少ない。立ち読みをしている人、遅れた昼食を買おうとしている人、おやつを買う人……。人は少ないが、様々な人がいる。咲都季は店長を探しに行ってしまい、菜津実は一人で何をしようかと考える。そして、ふとレジのほうを見た。
 レジをやっている店員は、ひょろりとしており、眼鏡をかけてぼさぼさの髪そのままに接客をしている。暗い態度で仕事をしていて大丈夫かと心配になるが、恐らく注意したところでなおさないだろう。
 人が少なくなたったころを見計らい、菜津実はレジへ行く。手には飲み物。せっかくコンビニへ来たのだから、コンビニ限定スイーツも買いたいと思ったが、最近少しお腹周りの肉が気になったために諦めた。
「やっほー貴深子」
 店員、もとい妹の貴深子に話しかける。
「菜津実姉さんか。どうしたんだ?」
 女性にしては少し低い声で言う貴深子に、菜津実はいつものあれだよと返す。ちらりと咲都季のほうを見ると、彼女は店長を見つけたのか必死にアプローチをしていた。
「あ、貴深子、いつものお願い」
 思い出したように、菜津実は言う。その言葉に貴深子ははいはいと言って菜津実たちがいつも吸う煙草をとった。
「ところでさ、店長って彼女いるの?」
 後ろに人が並んでいないことを確認して貴深子に話す。レジをやりながら、貴深子はいないんじゃないかと答える。そっかーと菜津実は言うと、そのすぐ後に貴深子はお代を言った。小銭を確認してぴったりを貴深子に渡すと菜津実は商品を受け取った。そして、頑張ってと貴深子に声をかけると、貴深子は姉さんも帰り道とか気を付けて、と返した。
 咲都季を見ると、まだ店長と何か話しをしている。いったい何の話しをしているのだろうかと近づいて聞いてみることにした。
「今月一番売れてるカップラーメンはやっぱり新商品の辛口ラーメンかな」
「じゃあ、あの、今週売れてる飲み物はなんですか!」
「飲み物だったら、ここ最近暑いし水がよく売れてるよ」
 ……なぜ売れ筋とか聞いてるのだろう。他に話すことはなかったのかとげんなりしたが、そろそろ家に帰りたくなった菜津実は咲都季に声をかけた。
「咲都季、そろそろ帰るよー」
 菜津実の声に、咲都季ははっとした顔をする。そして、店長に教えてくださりありがとうございますと頭を下げる。店長も、人のよさそうな笑みを浮かべてありがとうございました、また来て下さいと言うのが聞こえた。
 その言葉を聞き、咲都季は顔を赤くする。そんな咲都季の様子をかわいいと思いながら、菜津実は咲都季の手を引っ張りながら店を出た。買った飲み物が、まずくなりそうだった。

 

   

 


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