紅い華と贈り物
長くなった前髪をもてあそびながら、真佐紀は今日の予定を考える。今日もいつも通り仕事なので、決まったことしかできないのだが。
そろそろ前髪を切りに行きたいのだが、暫くの予定を考えると無理そうだ。自分で切るという手もあるが、この間試してみたら失敗し、自分の不器用さを実感したためもう二度とやりたくない。
とりあえずピンで留めようと机の上を探す。しかし、そこで真佐紀はいつも使っているやつがつい先日壊れたことを思い出す。
使い勝手がよかったのと、『彼女』からもらったものだったから。大事に使っていたが、さすがにずっと、しかもそれが何年ともなると、今まで壊れなかったほうがおかしいだろう。
かわりのピンを使う。いまいちピンとこないが、無いよりはマシだ。帰りに新しいやつでも買おうかと考え、真佐紀は部屋を出た。
休憩と称して、ぶらぶらと研究所内を歩く。長い時間同じ場所で同じことをしているのは気が滅入る。たまには、気分転換も必要だ。
せっかくだし、友人のところに遊びに行こうと思ったとき、『兄弟』である栞和が見えた。白い髪と合わせたような紅い髪飾りは、おぼろげに感じる彼女の存在をはっきりと示しているようだ。
誰かを探しているのだろうか、あたりをきょろきょろと見回している。いつもなら決まったような行動しかとらない彼女が珍しい。無視するのも自分の性格には合わないし、軽く挨拶して去ろうと思い、真佐紀は声をかけた。
「栞和ちゃん、こんにちは」
気さくに、それでいてなるべく彼女を驚かせないようにと心がけたつもりだが、声をかけた直後に彼女の肩がびくりと飛び上がるのが見える。どうやらまた驚かせてしまったみたいだ。
こちらを振り向いた栞和は、少し涙目になっている。また泣かせてしまったのかと思ったが、彼女の顔が瞬時に泣き顔から変わった。
「これ……」
そして、手に持っていた何かを渡してくる。それは、包装されていて中になにがあるのかはわからない。しかし、小さめのものだ。そして、どうやらさがしていたのは自分だったらしい。
しかし、真佐紀には彼女がなぜ自分にプレゼントを渡してくるのかわからない。誕生日はとうに過ぎたし、イベントごととも関係ないはずだ。受け取るのを戸惑っていると、栞和が何かを言った。
「この間は、ありがとう」
この間。もしかして、荷物を運んだときのことだろうか。わざわざお礼のものを渡してくるのは、律儀なのかそれとも人づきあいがよくわかっていないのか。彼女の性格から恐らく後者だろう。
とりあえず受け取って、ありがとうと言う。すると、彼女は再び驚いた顔をした。彼女の「ありがとう」の気持ちがこのプレゼントということで、それに対してお礼を言ったのだ。普通のことのはずなのだが、なぜだか頭がこんがらがってくる。
真佐紀が受け取ったことを確認すると、栞和は無言で去って行く。印象的な白と紅が見えなくなるまで、真佐紀は彼女を見ていた。
栞和からプレゼントを受け取った真佐紀は、そのまま友人のところへ向かわずに自分の研究室に戻る。せっかくなので、何が入ってるのか見たかったのだ。
丁寧に包装されているそれを、なるべく丁寧に開けて中身を取り出す。小さく、重量がないそれを見ると、ヘアピン。パッチンととめるタイプのやつだ。
シンプルに紅一色のもので、四つ入っていた。ちょうどヘアピンが欲しかったところで、ちょうどいい。普段でも使えそうだ。
必要なものがすぐに手に入ったことが嬉しい。しかし、それ以上に、真佐紀は久しぶりに見返りを求めないプレゼントをもらったことのほうが嬉しかった。ただ、自分のために、考えてくれたことが本当に嬉しくて。
早速つけようと、髪につける。視界が、明るくなった気がした。