傍にあるのは細い糸

 ――もったいないな。
 無表情で隣を歩いている少女を見て、玻璃は思う。伏せられることが多い瞳は、綺麗な瑠璃色。三つ編みにすることが多い長い髪は、ツヤがあり傷みを感じられない。白い肌は透き通る様で、少し病的な美しさが感じられる。
 人を寄せ付けない雰囲気を持つ少女。ただ、存在が異質に感じられて、玻璃は耐え切れずに彼女に話しかけた。
「瑠璃ちゃんは、今誰か好きな人でもいるの?」
 気軽に話しかけたつもりだったが、果たして彼女にはどう聞こえたか。一瞬びくりと震えると、彼女はこちらを向いてきた。
「どうしたの、急に」
 不機嫌に答える彼女から、問いが煩わしいものだったと理解する。しかし、玻璃は気になっていたのだ。ただ、彼女が『今』何を思い、何を感じて何を好きになっているのかを。
「ただ急に、気になっただけだよ」
 それだけのことだよ、と軽く言う。その言葉に、彼女はふうんと小さくつぶやいた。
 気難しそうな顔を続ける彼女に、皺ができちゃうよと言うと別にいいしと返ってくる。そんなんじゃ笑えなくなるよ、と言うと、それは困るとさらに顔を渋くした。

 ふと、去年の秋のことを思い出す。天照学院で、彼女の友人へ会いに行くために一緒に歩いていた時のこと。
 せっかくだから笑いなよと言ったら、彼女はうまく笑えないからと返してきた。少しくらいなら練習すればいいんじゃない、と言うと、彼女はそうだねと言って頬に手を添える。
 自然に笑いなよ、と言うと、彼女はそんなことできないしと頬を膨らませた。何か楽しいことを思い出せば自然と笑えるんじゃないかなと告げると、彼女は少し、何度か緩やかに笑ったかと思うと自然に破顔した。
 綺麗だな、というのが第一印象で、普段笑わない子の笑顔がこんなにも破壊力があるとは思わず。上を見上げると、一人の少年がこちらを見ていた。
 見とれているのだろうか。心なしか、頬が赤い。それが何を意味するのか気づくと、玻璃は苦笑した。ああそうか、頑張れよ。
 恐らく玻璃のことが見えていない少年に、心の中で応援をする。どうしたのと尋ねてきた彼女は、すでにいつもの表情をしていた。なんでもないと答えると、彼女はふうんと呟く。もうすぐだね、と言うと、彼女はそうだねとはにかんだ。その姿がまたかわいらしいと、思ったものだ。

「僕は、瑠璃ちゃんが幸せならそれでいいんだよ」
 ふとつぶやいた言葉は、彼女に聞こえただろうか。見ると、彼女は気づいていない。聞こえていのなら、それでいい。知らないのならば、それでいいのだ。
 願うことは、ただ、彼女の幸せで。不幸になってほしくなくて。人を好きになることを後悔してほしくない。ただ、変わらず彼女が幸せに過ごせるようにと玻璃は祈っていた。

 

   

 


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