ただ想いは流れてくる

 少し休憩しようと研究室を出たとき、大輔は想い人の荒神オリガを見つける。どこへ向かうのだろうと思っていると、こちらに近づいてきた。
 大輔に気づいたオリガは、柔らかい笑みを向けて挨拶してくる。大輔も挨拶をして通り過ぎようとしたが、ひらりと彼の髪を結んでいた紐がほどけた。
 慌てて落ちた紐を取ろうとした大輔だったが、紐はすでにオリガの手にある。えっと、となんて言えばいいのか迷う大輔に、オリガは綺麗な笑みをして彼に言った。

「いや、やっぱりいいですって」
 現在、小さな休憩室に大輔とオリガはいる。他に人はおらず、二人きりの状況に大輔は緊張していた。
「いいのです、私がやりたいと言ったことですし」
 現在、大輔は椅子に座りオリガはその後ろに立っている。彼女の手には先ほど大輔の髪からほどけた紐と、櫛。さきほど、オリガは大輔の長い髪をしばるとい言ったのだ。
 大輔は、やはり自分でやろうと振り返ろうとしたが、前を向いててくださいとオリガに言われ結局されるがままとなっていた。
 オリガの姿は見えないが、髪を優しく梳かす櫛の使い方などが大輔には感じられる。普段あまり櫛を使わないので、髪を梳かすときにすぐに引っかかってしまうのだが彼女は気にせずに丁寧に毛先のほうまで梳かしていった。
 彼女の手が、自分のために使われている、ただ見てることしかできなかった人が、こうして自分に触れてくれてる……。その事実が嬉しくて、大輔はただこの時間が続けばいいと思っていた。
「はい、できました」
 髪をしばり終えたオリガが、大輔に言う。あっさり終わってしまった時間を名残惜しく思いながら、大輔はありがとうございます、と返した。
「大輔さんの髪は長いのですね」
 後ろにいるオリガのほうを見ようと振り返ったとき、彼女が言う。変わらず彼女は笑っており、大輔は美しいと思った。
「はい、昔からのばしてますからね。親にもそろそろ切れと言われてるんですけど……」
 何か言おうとして、緊張が先回って噛みそうになる。語尾も小さくなっていき、オリガにちゃんと聞こえたのかと不安になった。
「でも、私はそんな大輔さんの髪が好きですよ」
 突然の告白に、顔が赤くなる。髪のことを言ってるのはわかっているが、好きな人に『好き』と言われるとつい嬉しくなってしまう。
 ありがとうございます、と小さく呟くと、大輔は立ち上がって急いで休憩室を出ようとする。扉に手を掛ける直前、オリガは言う。
「もしよければ、またやらせてください」
 振り向かず、無言で部屋を出る。勢いよく閉められた扉に、彼女は何を思うだろうか。しかし、今はただ赤くなった顔を誰にも見られないようにと願っていた。

 

   

 


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