沈む船には光を乗せて

 暗い部屋。懐かしい、黴臭い場所。本がたくさん散らばっている。
目の前には、仁王立ちをした少年。瑠璃のことを、蔑んだ目で見ていた。
「何か、用ですか」
 瑠璃が問うと、少年は何か気に入らないのか殴りかかろうとする。ああ、痛いんだろうなあと瑠璃は考えるが、くるはずのものがこない。
 かわりに、息苦しさを感じる。空気を吸おうと必死にもがくも、入ってくるわけがない。首にまとわりついている指を全力で外そうとするが、筋力の差でそれも叶わない。
 しかし、すぐに息苦しさがなくなった。足りない酸素を懸命に取り込もうとし、咳き込む。その様子を、少年は冷めた目で見ていたが瑠璃は気づかない。しばらくのあいだ、瑠璃が咳き込む音だけが聞こえていた。
「一族の恥知らずが」
 少年が呟いた言葉が不意に聞こえる。彼の表情を見ようと顔をあげようとしたが、出し抜けに蹴りが繰り出されて叶わなかった。
 再び咳き込む瑠璃に、少年は乱暴に瑠璃の髪を掴む。無理矢理顔をあげられた瑠璃は、苦痛に顔を歪ませ涙を浮かべた。
「お前など、誰にも愛されない」
 彼は、瑠璃に呪いの言葉を発する。
 一生誰にも好かれないのだ。諦めろ。お前には生きている価値などない。
 様々な呪詛が、瑠璃の耳に入ってくる。瑠璃は、ただ無感情に聞き流すだけだ。もう少ししたら終わる。そう、もう少しだけ我慢すれば……。



 目を覚ますと、荒神の自分の部屋。当たり前のように、痛みなどない。息苦しさも、首の赤い跡も、何もかも。
 大丈夫だと、瑠璃は自分に言い聞かせる。私のことを好きだと言ってくれる人はいるのだと。
 未だに頭にこびりつく『彼』の言葉が、瑠璃の中から抜けない。必死に、今までの楽しいことを思い出そうとするが、先ほど見た夢の記憶のほうが真新しく、何も考えることができなかった。
 昔は、辛いことがあると玻璃が傍にいてくれた。大丈夫だと、励ましてくれた。『一番欲しい言葉』は言ってくれなかったが、それでも瑠璃にとっては心強かった。
 しばらくすると、気持ちが落ち着いてきた。時計を見ると、午前五時。起きるのには早い時間だが、これ以上寝る気分にはなれず、瑠璃は起き上がる。
 家族に会えば、また気持ちも切り替わるだろう。そう信じて、瑠璃は部屋の扉を開けた。

 

   

 


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