「…………えっと……ヴィンセント?」
「…………」
ぐちゃぐちゃに倒れた魔物を前に、がくりと脱力する気持ちになる。
思った以上の手ごわさに、加えて同じレベルの魔物が一体、二体と増えて………私はリミットブレイクせざるをえなかった。
正直、この可能性もなかったわけではないから……かつての仲間と討伐にあたりたかったのだ。
案の定、目の前の少年……ティーダはぽかんとした顔で変わり果てたカオスの私を見て、そしてあっという間に殲滅させられた敵を見た。
リミットブレイクする前は、二人であれほど苦戦したのに、変わった瞬間にあっという間に終わった。
「………ヴィンセント……だよな?」
ティーダの言葉に、返事を返すこともなく、私は姿を人間に近づけた。
細胞が変化していく若干の不快感を感じながら、通常時の姿を模れば……ティーダはやはり驚いたままの表情だった。
「……あらかた、魔物は掃討した。今日はこれで戻ろう」
「え?あ、ちょっと……!」
私は踵を返すと、早足で町の方向へと歩き出す。
なにをどうやっても、ティーダの疑問に答えることもできなければ、感じたであろう嫌悪を取り払うこともできそうになかったからだ。
クラウドはこちらに向かっているといっていた。もう、着いていてもおかしくはないだろう。
早く、この少年をクラウドに引き渡してしまいたい。
そんな風に思いながら、私は酷い嫌悪感を自らに感じていた。
ティーダには結局、なにも言っていない。
彼はとても困惑しているし、恐怖を抱えているだろう。
親しげに、好意をもったように話しかけていた人間が実は魔物と大差ない化け物だったなんて。
まるで逃げるかのように、早足で歩くが……そう言えば後ろにティーダがついてくる気配がない。
………私に恐怖を感じて着いて来れなくなったのか?
けれどさすがにここに一人残すわけには……。
そう思って、そっと振り返れば―――。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
耳を劈くような雄たけびが聞こえ、同時に振り向いた腹部にどしりと衝撃が走った。
「ぐっ……!」
「無視すんなッスーーー!!」
腹に突進してきたティーダは、そのまま私を腕で締め付けた。
思わず呻いてしまったが、締め付けられたのは一瞬で、すぐにふっと力が抜ける。
まるで抱きついてきた状態になってしまっているティーダのつむじを見下ろしながら、私は酷く困惑していた。
「………無視すんなッス。俺は話しかけてんのに……」
「……すまない」
そう呟けば、ティーダはぐっと僅かに腕に力を込めた。
振りほどこうとすれば、簡単にティーダを離す事が出来るだろう。
けど、それをする必要は……ないような気がして、私はされるがままに従った。
「………なんで逃げたんスか?」
「逃げたわけじゃない」
「嘘だ。俺が話しかけてんのに、そそくさと逃げ出したじゃないッスか。……俺、なんかした?」
「……いや。していない」
ティーダは背中を丸めて、私の腹に頭をつけている。
こんな接触をしたことがなくて、どうすればいいのかよく分からない。
「……さっきのさ。なんか、ヴィンセントが……えーっと、変身?みたいなのしたじゃないッスか。あれってなんスか?」
「……人体改造された結果だ。私の体はもう、人とは呼べないものになっている」
「え!?」
がばりと顔を上げたティーダは目を丸くしていた。
けれど、その瞳には嫌悪とかそういった色はなく、純粋に驚きだけがあった。
そのことに気づいて、また私は僅かに戸惑う。
「人体改造って……痛いッスか?」
「いや……痛くはない」
「そっか。良かったッス!あーびっくりした。体がメキメキと変形するから、痛そうだなーって思ったッスよ」
からりと笑うティーダに、私は信じられないようなものを見る目をしたと思う。
そんな反応をされたことが今までなかったからだ。
たいがいは驚き、恐怖し、嫌悪するか……はたまた同情の念を寄せるかだ。
「あ、ごめん。良かったって別に人体改造されたこととかを言ってんじゃないッスよ!?
ただ単純に、変身が痛くないことが良かったなーって……うーん……上手く言えないッス……」
がしがしと頭を掻くティーダは、とりあえず私を嫌悪しているわけではないというのは十二分に伝わってきた。
嫌悪していたら、真相を聞く前に抱きつこうなどとはしないだろう。
「……ティーダ」
「なんスか?」
怖くはないのか?
「……無視してすまなかった」
「もういいッスよ」
聞きたいことはそのまま飲み込んだ。
聞いてはいけないような気がしたからだ。
ティーダは真相を知る前と変わらない距離で話をしてくれているのに、『怖くないか』なんて聞くのは失礼な気がした。
まるで、ティーダを疑っているような気がして。
ティーダは、私を疑っていないと全身で示してくれたはずなのに。
「……戻るか」
「うッス。そろそろクラウドも来てるかもしれないッスねー。あ!さっき電話一方的に切っちゃったんだけ!
クラウド怒ってたら、フォローよろしく頼むッス!!」
そんな風に言い合っていたら、噂をすれば影というか……前方からクラウドがこちらに向かって来るの見えた。
「あ!クラウドだ!おーい!クラウドー!!」
ぶんぶんと手を振って、クラウドのほうへと駆け寄ろうとするティーダが、まるで主人に向かっていく犬のようで……。
そんな少し失礼なことを考えていたところでティーダがくるりと振り返ったからどきりとした。
心が読まれたかと、一瞬ありえないことを考えたが―――。
「ヴィンセントも教えてくれたから、俺も教えるッス。きっと、たぶんだけど……俺も人間じゃないんだ」
そう言って、顔を歪めたティーダは『ヴィンセントと俺だけの秘密ッスよ』と付け足しすとにかりと笑って一目散にクラウドへと走っていった。
歪められた、まるで泣き出しそうな顔と、そのすぐ後に生み出された満面の笑み。
そのコントラストがきつすぎて、私はしばらく動けなかった。
目の前ではクラウドがティーダになにごとか小言を言っているようだが、ティーダが笑うと、つられる様に微笑んだ。
あんな様子のクラウドを見るのも、初めてかもしれないと私はさらに困惑する。
「ヴィンセントー!!なーにしてるっスか?早く来いよー!!」
ぶんぶんと手を振るティーダに、私はようやく足を動かした。
思った以上に、ティーダの言った言葉に心を傾がせたようで、平静を取り繕えているかが心配だった。
クラウドに、ティーダが二人だけの秘密だと言ったことを見抜かれてしまうのではないかと思えてしまって……。
「終わったのか?」
「ああ。あらかたはな」
「明日も行くのだろう?そのときは俺も行こう」
「ああ。助かる」
クラウドと用件だけの短い会話して、町へと向かう私たちを先導するティーダを見た。
ティーダは機嫌よさげに、鼻歌を歌いながら歩いている。
その様子は本当に陽気といえるようで……告げられた言葉が真実ではないような気がしてしまう。
「ティーダはどうだった?」
「……ああ。よく働いてくれた。……彼は、いい……『人間』だな」
「そうだな。気持ちのいい人間だ」
そう言ったクラウドは、穏やかな目をしてティーダを見ている。
私はクラウドに『彼が人間ではないかもしれないことを知っているのか』と問いたくなったが、それはできないことだった。
ティーダは『秘密』だと言った。
……つまり、クラウドにも言っていないのだろう。
この世界で生きるものは、なにかしらの秘密を抱えている。
私も、彼も。
例外などないのだ。
けれど、そう。
クラウドの言ったとおり、ティーダは気持ちのいい『人間』だ。
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999Hitのリクエストで、Lifeの続編で、ティファ以外の7のキャラや仲間との絡み……ということなので、
ヴィンセントとティーダにしてみました。ほぼ、クラウドがでてきていないですね。
710かつ、7キャラとの絡みを希望されてたら申し訳ないです……。
ティーダは召喚獣の一部、もしくは召喚獣だと解釈してるので……人間じゃないよね。
なのでそのへんの人間談義的なところをヴィンセントと少々してもらいました。
ティーダは一方的に言ってるだけですけどね。これじゃあヴィンセントはわけが分からないという感想だけでしょうに。
作品は透夜様のみ、お持ち帰り可能です。
お好きにしてください。
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