BLACK | ナノ

恋は盲目、


その日は酷い雨だった。排水溝はもう限界だと悲鳴をあげるように降りしきる雨を吸い込んでいて、その音が五月蝿い夜だった。

真夜中のこんな時間に酷い雨に降られた俺はいつもなら諦めて濡れて家まで帰るつもりだったけどその日はそれができないほどの肌を刺すような痛い雨だったので少しだけ雨足がましになるまで人気のないもう閉まっている店の前で休もうとした。

マネージャーに家まで送ってもらえばよかったと後悔しながらその屋根の下には先客がいた。ぼんやりと暗い夜に浮かぶ白い肌は血の気がなかった。こんな真夜中に女性が一人、ずぶ濡れで無防備だなと思った。

水気を帯びてか髪は凪のように優しく揺れていた。それが肩や頬に張り付いてるのにそれを気にもせずただどこか一点を見つめてた。そしてそんなに彼女のことを見つめていた自分にも驚いた。正直吸い込まれるような美しさだったから。


「あの…」

意を決して話しかけてみた、こちらを見た彼女の瞳に自分が映る。それに胸がざわつく。

その瞬間に彼女が抱きついてきた、というよりも胸にうずくまった。俺は行き場のなくなった手を宙に浮かせてただ彼女の反応を待った。


「え、え…?」
「…今夜だけ、一緒にいてくれませんか?」

頭が散らかった、もしかしたらそういう商売なのかと。ただ出会ったばかりの俺に言うということは誰でも良かったという事だ。そうしたら今この胸の中にいる彼女はまた次会った名前も知らない誰かに同じ言葉をかけるんだろうと思った、そう思うと彼女を取られたくないと勝手に支配欲に駆られた。


だから俺は言った。
「…酷い人ですね。」と

そう言ってさっきまで雨に打たれるのが嫌で逃げてきた雨の中を走り出した、雨滴が刺すように痛くて冷たい。自分の家に着くと何にもないフローリングの上で彼女を押し倒していた。

彼女が望んでいることはこういう事だと問うように。


水を吸い込んだ服は重くてそこら辺に投げ捨てた、一方彼女はただ従順に俺の手によって脱がされるだけだった。降るようにキスをすると身を捩らせて身体が熱くなるのがわかった。熱っぽい身体が気怠い。

上を向いた桃色の突起を舌で舐め回すと吐息のような声がもれる。まるで何か犯罪を犯しているような気分だった、俺の手の中で変わる胸が心地よく顔を歪ませる彼女の顔が堪らなく綺麗だった。

愛撫も程々に俺はベルトを緩めた、その音に反応して彼女はすこし顔を背けた。今更怖気付いたのか、瞳に涙を溜めて。だけど俺はそれに気づかないふりをする、今更もう止められない。

「…足開いて」

彼女は先程から喘ぐばかりで言葉を発さない。それが余計に背徳感を唆る。おすおずと内股だったその足を開いた。だけどそれも僅か。

「…ちゃんと開いて」

二度、そう言うと見える範囲で開けるがまだ足りない。


「もっとちゃんと開いて…じゃないと挿れられない。」

急に子供のような目で俺を下から見上げてくる、この支配感が堪らなかった。赤く熟れたそこが濡れていてひどく興奮した。彼女は足を開けているがその足は嗤っていた、小刻みに震えている。


「…寒いの?」

そう問いかけると控えめに頷く、だけどそれが嘘なのも強がりなのもわかっていた。その震えは恐怖だと言うことを俺は知っていた。大体嘘が分かりやすすぎる、処女かどうかなんて男は見たらすぐわかる。

満たされたことのない彼女の中を支配する、勢いよく突き上げると息を呑んで高い悲鳴をこぼす、その吐息が俺の肩にかかる。


「…っ、ぁ」
「…大丈夫、すぐ気持ちよくなるよ」

髪をくしゃりと撫でるとそんなものにも余裕なく俺の腹に手を添えて押し返す、そんな弱々しい力じゃ意味ないのにね。

そこでようやく彼女が言葉を発した。


「…や、待っ…動かないで」

泣き出しそうな瞳で見上げてくるけどその口を塞ぐ、フローリングに伸びた黒髪が真夜中の海のように優しく揺らぐ。


「…ごめん、無理っ」

感じたことのない極めてきつい圧迫感に俺も余裕をなくしそうだった、激しく出し入れするとぐちゅ、ぐちゅと不気味で卑猥な音が部屋に響く。

吸い込むような呑まれるような形で繋がっている接続部に興奮を覚える。


「ん…っぁ、あぁ…」

だらしなく彼女も声を我慢できないらしく溢れて俺を見る、その顔はひどく歪んでいて気持ちいいからなのか後悔からなのか睨んでいるのかよくわからなかった。こんなに繋がっているのに感情はそこから流れてこなかった。


「…俺を選んだこと後悔するよ、」

そういって嗤うとまたあの瞳で返した。絶頂に近づくと彼女も痛みが取れてきたのか恍惚の表情に変わってくる、息が荒くなってくるとお互いに身体を弛緩させて達した。

それから一度引き抜いて、彼女を四つん這いにさせてまた入り口にあてがう。


「…え?」

彼女が困惑の声をもらすと俺は当然のように彼女の腰に手を添えた。

「自分で挿れて、動かして…」

彼女は唇を噛んで首を横にふる、だけどそれが俺を許すはずなく甘い口づけをして誤魔化す。


「ほら、やってみて。」

手伝ってあげるからと先だけを挿れてあげるとゆっくりと彼女が腰を動かした。俺からは繋がっている部分がゆっくり彼女の中に呑まれるのを見れるから歪む顔を抑えるのに必死だった、脈打つ自分の物が慣らされた彼女の襞を割って広げて呑み込まれていく、咥えるように愛おしいように呑み込むようなその光景に目が離せなくなった。

彼女が音をあげるのと同時に限界がきてその体制のまま押し倒すと彼女に覆い被さるような形になる、すると奥まで届くのか逃げようともがいて悲鳴がもれる。それを勿論逃がさない。


「あ…やぁっ…深っ…」

そのまま腰を打ち付けると身体をびくびくと痙攣するように何かに耐えるように身を捩らせる姿が愛おしいと思った。


「…ねぇ、中で出していい?」

そういうと力の入らない指先で俺の手を握る、その手は可哀想なくらい震えている。


「…それは駄目、」
「ねぇ、こんな人だと思わなかった?」

俺くらいの見た目なら優しくしてくれそうだとか思ったの?そう問いかけると悔しそうに唇を甘噛みする、その唇をまた慰めるようにキスをする。


「…でもね、こんなことで満たされると勘違いした自分も悪いんだよ?」

寂しかったのか、何があったのか知らないけどまるで構って欲しそうな何かに縋るような目をしていた彼女にも責任はあるのだ。俺はそれに便乗しただけ。


「…悪い男に引っかかっちゃたね、」

憐れむように抱きしめると縋るような目で何かを諦めたように俺の手を今度は優しく握り返した。それから何故か体を捻って俺にキスすると、ふっと一瞬だけ嗤って俺は今まであった劣等感が引き剥がされたような気がした。


「…酷い人、ですね」

反覆されたような気がした。さっき言った俺の言葉を奪って。それが彼女の覚悟のようにも思えた、だけど燃え上がった正直な身体の熱情は収まらなくてただ彼女の中に欲を放った。


翌朝、目を覚ますと心地のいい寝起きではなかった。よく覚えていないけど、夢の中で何故かキラリと鈍く光るものに突き刺されるような夢を見たから。それはきっとあのままなだれ込んで布団に入ったからだろうか。身体もすこし気怠い感じがする。

彼女はまだ眠っていてその寝顔があまりに幼くてずっと見ていたいようなそんな気がする。だけど俺が身動ぎしただけで彼女は重い瞼を開けた。俺は飲み物入れてくるよと布団から出た。

戻っきたときに彼女が見ていたのは写真だった。すこしだけ居心地が悪いそんな気がした。


「…見ても面白いものじゃないよ、」

そう言ってその写真をうつ伏せる。


「…彼女さんですか?」
「ううん…母親」
「…え、」
「…はは、よく驚かれる」

若いでしょって言うと本当に驚いたような目をしてこくこくと頷く。それからすこしだけ面白くない話をした。俺のこと、父親とは離婚していて小さい頃から母親一人で育ててくれてた。人によく思われない仕事をしながら。


「…今は、」
「死んだよ…もう随分前に」

自殺だった。俺に何の力も無かったから助けてくれる人もいなくてただ一人で寂しさを抱えながら死んでしまった。

昔の話だけどね、と薄ら笑いを浮かべながらいうと彼女はそっとその飲み物を俺の手から受け取った。俺の手をその両手で包み込んで何も言わなかったけど俺はそれでよかった。


母親がいないことは今までに何度か話したことがあった。そんなとき同情してくれる人もいた、同情してくれるのは俺を心配してくれているから嬉しいとそう思う。

だけど同情するということはその時点で可哀想だと上から目線で見られている気がして嫌になる、俺は何も可哀想なんかじゃないのに。どっちの気持ちも本当で矛盾したこの気持ちが一番醜くて嫌いだった。


ぬるくなった珈琲を飲み干すと彼女は服を着て家から出て行こうとした、その時に今まで聞いてなかった名前を聞いた。そういえば俺たちは昨日何も知らないで抱き合った。


「…そう言えば名前は?」
「…今度会ったら分かります、」

そうとだけ言われて俺は困惑した。その顔は一度切なそうに歪んで、それから薄く笑った。それから続きをなぞられる。


「…え、っと」
「玉森です…」

戸惑っていた彼女に聞きたかったであろう解答を先に答えるとすこし困惑した顔で笑った、そしてそのままお邪魔しましたと丁寧にお辞儀をして出て行った。連絡先も交換していないのに今度会ったらってどういうことだろうとそんなことを思いながら、まぁ服は貸したままだし、俺の家も知ってるからまた来るのだろうとそんな気がしていた。

それから深い溜め息をついた。

本当はこんなことをしている場合じゃないのに寂しさに紛れて誰かの温もりに縋って彼女を抱いてしまった。彼女も俺もきっと誰でも良かったのだ、昨日の行為は。それが余計に僕らを虚しくさせた。あれは行為に熱が燃え上がっただけ。

俺には行かなくてはならない場所がある。それを紛らわすように俺は外に降るまだ止まない雨を見ていた。

fin .






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