永遠の幸せなんてないんだわ



she side.

私の部屋にその人は突然現れた。聞きたくもない言葉を抱えて。

だから言ったのに。さよならと言わせてほしかった、さよならの準備をしたかったのに彼はそれを許さないかのように私の口を何度も塞いだ。勝手な人だとは思ってたけど最後まで勝手な人だった。

縛られることを嫌ってそのくせ私のことはその腕に閉じ込めて、ふにゃりと微笑うその顔はとても愛らしくて大好きだったよ。


いつか話したよね。

「…不謹慎じゃない?」

今日一人逝っちゃったと。白い箱に花束を身体中の周りに埋もらせてこの施設から出ていった。東京の名前も知らない大きな病院で臓器移植の為に提供されるのだと、実に立派なことだと私達より大人の人が言った。

だから彼は言ったのだ。どっちかっていうと祝福でしょと。

誰かの為になることそれが立派なことだと頭では分かっているのに私は此処にいた人達、誰一人祝福して送りだせないし、逝ってほしくはないの。


「…触れてあげて、」

先生がそう言った。あの時、熱情を孕んだ溶けるくらいのキスをした時あなたはあんなにも熱くて私の全てを溶かされそうだったのに今の彼は。


「…嘘つき、」

とても冷たい。彼を感じることができないほど冷たい。

俺がいる、と寂しそうに独占するように私を抱きしめた慧くんの温もりは何処かに行ってしまった。何が側にいるよだよ、慧くんの方が先に逝っちゃってるじゃん。ほんと勝手な人だよね。

なんか微笑んでる顔だし、ほんとうに眠っているだけなんだと死んではいないんだと悟る。だって呼吸音が聞こえる。何が眠る前、そんなに幸せだったのか問いてみたい、もうその応えは二度と聞けないのだけれど。

柔らかい猫っ毛の髪の毛、微笑った時にできる頬の皺、触れるといつもすこし湿ったくちびる。


ねぇ、起きてといつか慧くんが言ってた裸エプロンでも所望して起こしたら飛び起きてくれる?

そんな事くらいで慧くんがその瞳を輝かせていつものふざけた調子で微笑ってくれるなら何でもするのに。


「…ねぇ、起きてよっ」

啼き声は二人でいたいつものシーツの海に隠す、まるで寝ているような慧くんの間抜け面を見てお腹が捩れるくらいに微笑ってあげるから、ひとりにしないで。

約束した二年の夏、愛は冷え切ってしまった。


fin .

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