その愛は不味くて最低だった
「大好きだったよ、」
あれほど焦がれてた彼からの愛の囁きなのに、こんなにも悲哀に満ちているのは何でなんだろうね。それはきっとその言葉が過去形だからなのかもしれない。
he side .
それは瞬きするような一瞬の恋だった、夏のきらめきが過ぎるのと同じくらいで秒速で正しくいうとするなら僕らの過ごした時間はたったの94608000秒だった。
僕らに永遠も未来もない事なんて分かっていたのに、それでも恋をしたんだ。どうしようもなく君が好きだったから。
氷が歯にぶつかる音がした、夏らしい音がする。と言ってももう外は夏と呼ぶには相応しく無いらしいけど。らしいというのは僕らがここから出ていないから、というのは語弊で出られないからだった。
僕がここに来てからもう随分経った、彼女と恋仲になって二年。そろそろさよならの時季になる。
彼女と付き合う時に約束した、付き合う期間は二年だけだと。何故だと聞くのは野暮だった、僕らはその理由を知っていたから。
「ねぇ、食べて」
「何を?」
「口の中のやつ、」
気怠い暑さの中、口に含んでいる涼しげな音を響かせてるその水分を呑みこむように彼女に促す。それをいうと彼女は怪訝な顔をした。
「何で?」
「…したいから、」
「…盛りのついた雄は嫌われるよ」
動物の世界じゃね、と補足を付け加えて。俺はじゃあ人間だからいいじゃんと言うと何とも腑に落ちない顔をしていた。そうだ、動物になんて例える意味なんてない、僕らは人間なんだから。そうゆう訳じゃないのはわかっているんだけど。
「…はやく、」
「…私はしたくない、」
「…本当に?」
だってそれで前、隣の人に声聴かれたんだからねと彼女は憤慨する。
「…ははっ、いいじゃん別に」
「…良くない、恥ずかし過ぎて禿げるわ」
そう言うけどもう限界だった、気がつけば彼女の手首を押さえつけていた。ああ、相変わらず暑い。この煮え滾るような夏の暑さにきっと脳も侵されているんだろう。
水音が響く、聞く人によれば子供が水溜りで遊んでいるような音だし想像は自由だ。だけど残念ながらそんなに綺麗なものではないらしい、欲に支配された獣のような目をした自分が彼女の瞳に映し出されてるのを見て思った。これが最後の口づけにならない事を。そうして暫く続けていると氷は溶けて呆気なく消えた。
「…暑い。」
「…じゃ服脱ごう、」
「…やっぱ暑くない」
天邪鬼、そう思いながら彼女の髪を掻き分ける、首筋が見えるとそこに人の中で最も柔らかいとされているくちびるで触れる。
小さく彼女が声を殺しているのが分かった、下でその浮き出た細い血管を這うように舐めると変態と罵られた。ああ、その瞳いいなぁ。
「…不謹慎じゃない?」
今日一人いっちゃったって言うのにと彼女は言う。そうだね、この建物から今日一人、花束を抱えて出ていった。
「どっちかっていうと祝福でしょ、」
めでたい事なんだからと続けていうと、それでも彼女は東京になんかいって欲しくなかったと言う。
「…しょうがないじゃん、あいつは其れを望んだんだから」
ずっと一瞬に居たんだよ、と彼女は言う。ふるえる睫毛が上下に揺れて、その瞳は涙で溺れそう。
「…俺がいるじゃん、」
どうせならさよならするその瞬間まで側にいたい、いつかくる別れの時に閉じた瞼の裏にでさえ焼きつくように俺の顔を憶えていてほしい。
一瞬のきらめきを僕らは纏う、だからいっそ裸になって飛びついて君を抱きしめたい。
君の体温をこの肌でちゃんと感じたいから。そしたら彼女は言うんだろうな、きっとこの変態って呆れながら微笑って。
fin .